中国の大河・長江(下流部は揚子江)の南側が江南、杜牧の四權絶句「江南春」から、風光明媚にして深い歴史を秘めた土地と知れます。
江南を貫く富春江は、河・江には及びませんが長さ500kmほどで大河と云えます。沿岸に大都会・杭州市が位置し、映画の舞台となる富陽区は地下鉄で30分ほど離れています。都市化の波で高騰する住宅事情が庶民を苦しめます。
富陽に住む四人兄弟を中心とする三代の大家族。老母は古希の祝いの席で脳卒中に倒れ、後の生活に困難が生じます。長男は料理店を経営し、次男は漁師を生業とし、三男はダウン症の息子を育てながら無職で借金まみれ、四男は母の愛を一身に受けつつ取り壊し現場で働きます。
長男の娘・グーシーは、親の思惑とは裏腹に安月給の教師・ジャンとの結婚を望んでいます。次男は息子に、居住マンションの立退料で新居を買うつもりです。
恐らく誰もが想像できる家庭的・社会的問題が起こります。多くの人にとっても身近な問題です。社会で考えなけらばならない大きな課題かも知れません。
映画の魅力は登場する俳優、と言うより監督の親族・知人をキャスティングした素人たちです。不自然さは感じられません。監督・脚本のグー・シャオガンは、美しい四季の景色の中、4年をかけて一つ一つの出来事を丁寧に描きます。
長回しで川面を水平移動するカメラ・ワークが深く心に残ります。
例えば、グーシーが川沿いの道を歩き、ジャンは泳いで水から上がり、二人でフェリーを操船するジャンの父親に会いに行く数分が1カット。例えば、供養で川に魚を放つ長男夫婦、パンして丘の中腹を進む釣り人を追い、先端に来ると大きな川に出て大きな船を追う数分が1カット。
春、母の墓参り。グーシーが倒れた後の祖母に手渡したノートを四男が読み上げます。母が富陽に嫁いだころの記憶が鮮やかに書き留められています。
グーシーは母に寄り添い、ジャンは義父の「昔はもっと苦労があって結ばれた」話を聞きながら山を下ります。
経済至上主義で庶民に降りかかる問題は国を問わず、異なるのは国の体制や為政者の主義主張と感じさせられます。これが中国で制作されたとは。
「春江水暖」とは、蘇軾の七言絶句「恵崇春江暁景二首 其一」の第二句「春江水暖鴨先知」から取られています。いずれ続編ができるようで待ち遠しい。
(2021年3月9日記録)
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