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2020年10月

2020年10月31日 (土)

原節子主演「新しき土」

Img_20201031_0001  鎌倉市川喜多映画記念館にて開催中の「特別展 生誕100年 激動の時代を生きた二人の女優ー原節子と山口淑子」に関連して上映される、原節子主演「新しき土」を鑑賞しました。

 この映画は、デビュー直後の16歳の原節子がヒロインを務める1937年の作品です。ドイツのアーノルト・ファンクと日本の伊丹万作の共同監督で計画されたが、両者は意見の相違で対立、同一タイトルでファンク版と伊丹版が撮影されたそうです。今回の上映はファンク版、時代を濃厚に反映する内容です。こうなると伊丹版も鑑賞したくなります。

 裕福な士族の養子になった大和輝雄は、養家支援によるドイツ留学を終えて恋人の記者・ゲルダを帯同して帰国する。鴎外「舞姫」を思わせる入りです。ところが輝雄には結婚を約束された大和家の一人娘・光子がいました。輝雄は、自由世界の薫陶を受けて古いしきたりを打破、光子とは結婚しないと言い出します。
 大和家の親族会議で、当主は輝雄の考えを尊重したいと言う。そのことを儚んだ光子は、用意されていた結婚衣装を携えて険しい山奥に入り込みます。気付いた輝雄は光子を探すために、火山の熱気が噴き出す道なき道を苦痛に耐えながら探し回って、光子を助け出します。
 この後の展開は急で、丸く収まった二人は旧満州国に渡って開拓に従事します。

 1936年の日本の様子を濃厚に映しこんでいます。気付いただけでも、恐らく松島、富士山。火山は浅間山、安芸の宮島、東京、鎌倉、大阪、京都など多様なロケ地。旅行している訳ではありません。あくまで近接した地域として描かれていて、変化にとんだ日本の素晴らしさを伝えるものでしょう。
 裕福な士族の跡継ぎの家族が、旧満州国で開拓に従事する結末も荒唐無稽と思われます。いずれも国策を知らしめる意図でしょう。

 現代に生きる老人と云える私だからそう感じますが、往時の人々はどう受け止めたのでしょか。
 16歳の原節子の美しいことは言うまでもありませんが、まだ少女です。東京物語などで見られる成人女性の美しさとは異にします。どちらも素敵なことに異論はありませんが。80年前の映画とは思えないほど鮮明です。大画面で見る映画は良いですね。  (2020年10月31日記録)

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2020年10月11日 (日)

能「善知鳥」

私の足が遠のいていた訳ではありませんが、久しぶりに横浜能楽堂に出かけました。入場者数を制限して上演するようになったと云うことです。本日の演目は「馬場あき子と行く歌枕の旅 第1回陸奥国外の浜 善知鳥」です。「善知鳥」は「うとう」と読みます。作者不詳、一説に世阿弥(能楽ハンドブック)。

行脚の僧が陸奥国(現青森県)へ向かう途中、越中国(現富山県)立山地獄に立寄って下ります。そこに一人の老人、実は昨年亡くなった外ヶ浜の猟師の亡霊が現れ、外の浜の妻子に家にある蓑笠を手向けて弔って欲しいと、伝えるように頼みます。僧はためらいますが、着ていた着物の片袖を解き、これを証拠にと、立ち去ります。
外の浜に着いた僧は妻子を訪ねると、家にあった漁師の着物の片袖は無く、届けた片袖と一致します。蓑笠を手向けて弔っている所に猟師の亡霊が現れます。亡霊は生前、善知鳥などを捕獲して殺生を続けた報いで、地獄では化鳥に責め苦を与えられているので、罪を消して助けて欲しいと懇願して消え失せます。

弔いの場に現れる亡霊は「陸奥の 外の浜なる呼子鳥 鳴くなる声は うとうやすかた」と詠います。
青森駅の近くに善知鳥神社がありますが、その創設は善知鳥中納言安方、現在は安方町に鎮座します。鳴く声の「うとうやすかた」はここから採られているのでしょうか。ともかく無益な殺生の戒めを説いているのでしょう。

蛇足ですが善知鳥神社、偉大な版画家の棟方志功の生家は近所で、幼少の時は境内で遊んだと案内されています。

写真はプログラムより、善知鳥神社、境内の謡跡碑。

   (2020年10月10日観劇・記録)

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#能 #善知鳥 #野村四朗 #横浜能楽堂 

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