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2014年4月 1日 (火)

音楽:神奈川フィル第297回定期演奏会

  指揮  金聖響

  演奏  神奈川フィルハーモニー管弦楽団

  曲目  藤倉大 :アトム
      マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」

  会場  横浜みなとみらいホール(1階13列22番)
  公演  2014年3月20日19:00~21:05(休憩20分)

 

 消え入るように演奏が終わり、誰もがフリーズ。静寂がホールを支配した。一人ひとりの胸中を去来したものは何か。無限に続くかと思えた静寂は、指揮者が体を弛緩させてオーベーションの嵐に変った。

 2011年3月12日、社会的混乱の中で開催された第270回定期演奏会はマーラー・第6番。客は700人。しかし、あの演奏会は救いだった。日常を淡々とこなす重みを示された気がした。演奏前、金聖響の「我々ができることは音楽しかない。精一杯演奏する」との挨拶、そして黙祷。今回、その演奏を聴いた客は聴いたなりに、聴けなかった客は聴けなかったなりに、3年前を思い返しただろう。

 そして、神奈川フィル常任指揮者・金聖響として最後の定期演奏会。本人の胸中を様々な思いが駆け巡ったであろうとは、長い静寂から想像するのみだ。

 

アトム。 弓を撥ねるようなボーイング、弦のかすかな響きで始まった。しかし、乾いた砂が固まらないように、いつまでも響きが響きのままで形にならない。打楽器に流れが渡る部分があって、打楽器のための、と形容してもよいようにも感じた。総じてとらえどころのない曲だったが、その印象こそとらえどころだったかも知れない。
 例えばマットを叩いたり紙を破ったり、色々なことが起こる現代曲ではなかった。種々情報がなければ、比較的新しいクラシック曲と感じたかも知れない。現代曲を捉える巾が広がった。視覚も駆使すると現代曲をより楽しめるという意味で、多くのファンが演奏会に通えば良いとも感じた。

 

マーラー・交響曲第6番。 第1楽章。何かが忍び寄るようで不気味な第1主題、アルマのテーマと呼ばれる愛の迸ばしりを感じさせる第2主題。緊張と弛緩が対峙しながらも繊細さは保たれる。明瞭な弦に管のアクセント、チェレスタの彩どり。神奈川フィルの懐の広さ、指揮者の統率力。

 第2楽章、アンダンテ。 いきなりヴィオリンが主題を奏で、管、そしてホルンへ。長閑な草原を彷徨う思いだが、紗をかけたような憂いが全体を覆う。屈託のない明るさに行き着かない思い。
 第270回ではスケルツォ・アンダンテの順だった。学究的なことに思い及ばないが、私はこちらの流れを好ましく感じた。一息入れて後半に臨む思いだ。まあ、音楽的に一息などなかったけれど。

 第3楽章、スケルツォ。 ティンパニーと低音弦の奏でるリズムの上にヴィオリンが主部を奏で、各楽器に引き継がれる。第1楽章を振り返るようだ。中間部でオーボエが優雅な旋律を奏でて展開。それらが再現された後に静かに終えた。神奈川フィルの様々な表情が見られて興味深かった。

 第4楽章。 演奏に30分ほど要する第6番で最長の楽章。主部で木管とヴィオリンが奏でる第1主題、ホルンが奏でる跳ねるような第2主題。注目のハンマーは、重く籠るひしゃげた音が2回。万感の思いを込み上げる音の中の音。再現部を経ることなく消え入るように終わってしまうせつなさ。

 総じて言えば、繊細な弦に逞しさも感じ、管は美しく安定していた。まあ、いつものことだ。そして、ティンパニーに代表される打の味わい深さなくして、悲劇に向かう過程を遺憾なく表現することは不可能だったろう。第6番は名曲。そして、名曲を名曲として響かせた名演が、金聖響と神奈川フィルの5年間の総決算だった。お疲れさまでした。

   (2014年4月1日記録)

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コメント

いつか聴きたいと思っていた金聖響氏の指揮での演奏。
ついに神奈川フィルでは聴けなくて残念でした。
こちらでも演奏会の方はなかなか情報にたどり着か無い感じですが、いつもこちらで細やかな感想を読むたびに、音楽を聴きたいという新たな気持ちが湧いてきます。
その内に。

投稿: strauss | 2014年4月 1日 (火) 13時33分

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