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2013年10月16日 (水)

演劇:神奈川芸術劇場「愛のおわり」日本版

  作・演出  パスカル・ランベール
  日本語監修 平田オリザ
  翻訳    平野暁人

  出演    兵頭公美
        太田宏
        赤い靴児童合唱団

  会場    神奈川芸術劇場・大スタジオ
  公演    2013年10月11日(金)~14日(月祝)、全4公演
  鑑賞    2013年10月14日(月祝) 14:00~16:10(休憩なし)
  参考    公式HP

 

 倉庫状の直方体、床の半分が舞台、半分が200強の階段状の客席。満席。年配者も少なくない。
 公演の冠を記せば「青年団国際演劇交流プロジェクト2013 ジュヌヴィリエ国立演劇センター・こまばアゴラ劇場国際共同事業 『愛のおわり』 日本版」となる。ランベール、平田オリザ、青年団の二人の役者が揃えば、小劇場系演劇の最も核心部分が窺える、との期待だろう。

 

 舞台には何も無い。強いて言えば、奥に観葉植物状の物体が離れて二つ、置かれている。照明も上部からのべたなもので、アクセントは無い。

 女が下手奥から登場、上手手前まで真っ直ぐに進んで立ち止まる。遅れて男が登場、照明スイッチをオンにして、同じ線上を進むが直ぐに立ち止まる。二人は10mほど離れて対峙する。基本的に、この線上から外れない。

 男が女へ、辛らつな言葉で別れる理由を一方的に投げつける。たまに、間を詰めることはある。女は立ち尽くしたまま、最小限の身体表現、うなだれる・見上げる・涙ぐむ・上半身を折り曲げる、で反応する。思わず何歩か詰め寄ろうとすれば、男に制せられる。

 少女合唱団が練習のために入ってくる。指定されたスタジオのようだが二人が居るので、一曲だけ、練習することの許しを請う。三部ほどの無伴奏で「海」を歌う。
 歌っている間に、二人は時計回りに半周して位置を替える。

 女は男へ、男が投げかけた言葉を茶化しながらも、別れの言葉を一方的に投げつける。男は、限られた身体表現で感情を表出するが、やがて立っていられなくなって身を投げ出す。

 最後、観葉植物と思っていた鉢植え、実は大きな羽飾りの帽子だが、二人は被る。

 

 舞台は、P.ブルック(*1)の言う「裸の舞台」だ。
 もう少し言葉を借りよう。「ひとりの人間がこのなにも無い空間を歩いて横切る、もう一人の人間がそれを見つめる---演劇行為が成り立つためには、これだけで足りるはずだ」。芝居が始まって束の間、この言葉が浮かんだ。

 そぎ落とす物などない舞台、男と女、場面転換としての少女合唱。これで130分の演劇が成立した。しかも、一瞬たりとも緊張を切らさない。傑作・名演だ。

 まず、作・演出を讃えたい。
 長い平均台上の演技のようで、落ちればそこで中断しそうな緊張感を終始保つ。発話者と身体表現者は、文楽の太夫と人形遣いの関係が、役割分担して二人の心の深奥を炙り出すようだ。一方的な言葉のつぶては、一発殴られるより大きなダメージを相手に与える。もし対話形式を選択していれば、これほどの張り詰めた状況にはならなかっただろう。

 二人の役者も大きく讃えたい。
 男は、前半約1時間の長台詞、後半約1時間のストイックな身体表現。女は、前後が入れ替わる。ともすれば単調になりそうな状況だが、決してそこに落ち込まない。緊張を持続して、130分を長く感じさせない。
 問題があるとすれば長台詞の際の身体表現か。ほとんで手しか使えない状況で、左右に広げてひらひらさせることもあった。芸もないように思えるが、雰囲気を壊さなければそれで良いかも知れない。

 

 ところで二人は何をしていたのか。芝居だろうか、現実だろうか。
 男が登場して照明のスイッチを自らの手でオンにするのは、実はスタジオの天井灯を灯しただけ。少女合唱の登場が端的に示すように、そこは共用空間、二人が別れを告げるための特殊な場所ではない。二人が最後に被る羽飾りの帽子は何か。

 決して特殊でない、誰にもでも不意に訪れる「愛のおわり」が示されたに過ぎないのだろう。みなさん、幸せの絶頂と思えても、くれぐれも油断をめされるな。

 

  *1 なにもない空間 P.ブルック 高橋康也・喜志哲雄訳 晶文選書32

   (2013年10月16日記録)

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