演劇:ハイバイ「月光のつつしみ」
作 岩松了
演出 岩井秀人
出演 姉(直子) 能島瑞穂(青年団)
弟(民男) 松井周(サンプル)
宮口 平原テツ(ハイバイ)
牧子 永井若葉(ハイバイ)
若葉 上田遥(ハイバイ)
男(田中正二) 坂口辰平(ハイバイ)
会場 神奈川芸術劇場・大スタジオ
公演 2013年9月20日(金)~9月26日(木)、全9公演
鑑賞 2013年9月26日(木) 14:00~(休憩なし)
参考 公式HP
始まりは背中を見せての発話など、口語演劇の流れと思った。終われば、口語演劇をかなり逸脱する部分を感じた。それは何か、私には劇的なるものへ向かうベクトルと思えた。
久しぶりに衝撃を受けた。心地良くないけれど、目を反らす訳にいかない衝撃だ。日頃は養生シートを被せてある人の本質をむき出しにしたらどうなるか。交わされる会話の一語一語を徹底的に突き詰めたらどうなるか。極めて攻撃的な空間に変貌するだろう。
舞台中央には居間、奥に向かって玄関に繋がる廊下が延びる。上手にはカーテンで仕切られた寝室。下手には少し高くなった台所、その奥には窓がある。カーテンの開け閉め、ライティングによるアクセントの変化はつけても、2時間20分ほどの長丁場に場面転換はない。
宮口と牧子は婚約中、牧子は妊娠している。弟(民男)と若葉は夫婦。姉(直子)は教師だったが、生徒との関係において退職して間もない。弟と宮口は幼馴染。弟は姉を強く慕っている。宮口も幼い頃の思い出から、姉にほのかな恋慕がある。男(田中正二)は姉の元同僚。
各々に交わされる会話から、これらの関係が判る。事件と言えば、牧子はリストカットで血まみれに。姉は、夜遅く突然現れた男(田中正二)に、元職場に戻って欲しいと言われながら小箱を渡される。しかし後に、降り始めた雪の中へ、窓から放り投げる。
ラスト、姉と弟は、雪の上がった外に出て小箱を探す。二人の声は次第に遠ざかる。
各々の関係や出来事は、一部の説明に過ぎない。牧子がリストカットに至る直接的な要因は判らない。必ずしも牧子に向けられたと言えない、小さな軋みの積み重ね。言葉の暴力と言うよりは、言葉が自分を迂回するように思えた時、存在への疑問が生じたかも知れない。
出演者はみな達者、中でも能島瑞穂は怪優。彼女のトーンが、全体の雰囲気を決定していた。彼女を観ている筈だけど、今回は強烈な印象を植え付けられた。一言一言は筋が通るのだけれど、寄せ集まると理不尽。そんな役柄を納得させられた。
昔、女房や息子は、青年団系の演劇をごちゃごちゃした家族関係を見せられていやなどと言った。最近はそれもありなどと言う。私は今になっていやだと思うようになった。いやは強い意識下にあって、どうでも良いとは異なるのだが。
他の演出・出演の舞台が観たくなった。他のハイバイも観たくなった。テキストも読んでみよう。
(2013年9月30日記録)
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