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2012年11月

2012年11月28日 (水)

音楽:第25回山手プロムナード・コンサート(やや長文)

  曲目  J.S.バッハ:フーガの技法 BWV1080

  演奏  平尾雅子 (ソプラノ・ガンバ)
      福沢 宏 (テノール・ガンバ)
      神戸愉樹美(バス・ガンバ)
      櫻井 茂 (バス・ガンバ)
      浦田芳通 (コルネット/リコーダー)
      江崎浩司 (アルト・ショーム)
      宮下宣子 (サクバット)
      吉田 將 (バスーン)
      渡邊順生 (チェンバロ)
      崎川晶子 (チェンバロ)

      朝岡 聡 (コンサート・ソムリエ)

  会場  横浜みなとみらいホール小ホール
  公演  2012年11月25日14:00~16:25(休憩15分)

 

 「フーガの技法」のLPレコードが3組あった。グールドはオルガン、レオンハルトはチェンバロ、マリーナ・アカデミーは種々の楽器編成、の演奏。一時期、J.S.バッハの作品の主なものを順番に聴いた時期があるので、レコードがあっておかしくないけど3組とは。レオンハルトを失念していた。

 とは言え、音楽の知識は中学校教育+αだから、演奏の細部を分析した訳でもない。せいぜい演奏形態の差異に興味があっただけだと思う。しかし、そういう気持ちがふと蘇るのだろうか。コンサートのチラシを見つけて前売りを入手したのだった。

 小ホールとは言え6割ぐらいの入り。どういう人たちか知る由もないけど、私のような素人は稀だろうなどと思った。

 

 演奏前の30分のプレトークは渡邊順生と朝岡聡。朝岡はTVで見かけるけどアナウサー。楽器や楽曲の解説があった。残響と耳の悪さで鮮明に聞き取れなかったけど。

 楽器はルネッサンス・モデルを選択。但し、ピッチの関係でバスーンはモダン楽器使用、バッロク・モデルだと半音低くなる。と言うことは、バスーンはルネッサンス期には無かったのか。演奏はモダンピッチによるものか、などの疑問が湧いた。ガンバはヴィオラ・ダ・ガンバのこと。楽器の選択は、響きの良さによると強調されていた。

 

 楽曲の演奏順と楽器編成を次にまとめる。楽器編成は私が視認、記憶したもの(たまたま筆記具未携行)。

 ContraPunctus 1    4声              弦
 ContraPunctus 2    4声              管
 ContraPunctus 4    4声。転回主題による       弦
 ContraPunctus 3    4声。転回主題による       管
 ContraPunctus 12 b/a 4声の鏡像フーガ         チ(4手)
 Canon 15        オクターヴのカノン       チ
 Canon 16        3度の対位法による10度のカノン チ
 ContraPunctus 5    4声の反行フーガ        弦・管
 ContraPunctus 9    4声の二重フーガ        弦・管
 ContraPunctus 10   4声の二重フーガ        弦・管
 ContraPunctus 7    拡大・縮小による4声の反行フーガ   弦・管
   休憩
 ContraPunctus 6    フランス様式による4声の反行フーガ  弦・管
 ContraPunctus 8    3声の三重フーガ)       弦(バスは一挺)
 ContraPunctus 11   4声の三重フーガ)       弦・管
 ContraPunctus 13 a/b 3声の鏡像フーガ)       チ(4手)
 Canon 17       5度の対位法による12度のカノン)チ
 Canon 14        拡大・反行カノン)       チ
 Fuga a 3 soggetti   3つの主題によるフーガ=未完) 弦・管・チ(4手?)
 Choral             『われら苦難の極みにあるとき』 弦・管・チ(4手?)

 

 演奏者の半分はどこかで聴いたことがある。そういうこともあって、以前よりは少し判る部分は増えていたと思う。知れているけど。

 弦のうち、ソプラノ・テノールはたぶん初めて聴いた。でも同族だから響きに違和感はなく、むしろ面白みが不足する思い。それに比べて管は個性的すぎる響き、各声部を際立たせる意味では良いけど。自己主張して面白く感じたが、こればかりだと、ちょっとつらいとも思う。
 全体のバランスを考えると、結果、良かった。管だけ、弦だけ、チェンバロだけの演奏では、ちょっと学究的すぎる気がする。

 事実主体で大した感想もまとまらない。技術面の言及でできればもう少し内容は膨らみそうだけど。次の機会までに勉強しておこうという気持ちはあるけど、さてどうなるか。

 

 第26回山手プロムナード・コンサートは、2013年2月9日、横浜外人墓地近くの山手聖公会で「匠の奏でるバロック ~有田正広&渡邊順生の世界~」です。興味ある方は詳細調べてください。

   (2012年11月28日記録)

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2012年11月25日 (日)

音楽:神奈川フィル第285回定期演奏会

  指揮  金聖響

  独奏  ゲルハルト・オビッツ(Pf)

  演奏  神奈川フィルハーモニー管弦楽団

  曲目  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5変ホ長調「皇帝」
      R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

  会場  横浜みなとみらいホール(1階13列22番)
  公演  2012年11月23日14:00~16:00(休憩20分)

 

 前回定期は欠席、その間にインバル・都響のマーラー1~3番を聴いた。だから神奈川フィルはどう響くか楽しみだった。秋の夜長ではないけど、静かな曲を聞きたいなどと思いながら会場に向かった。

 予定時刻にメンバーが登場、静かな拍手が沸き起こり、最後のコンサート・マスター登場で一際高まって鎮まる。他のオーケストラを良く知らないけど、神奈川フィル特有か。良い習慣だ。

 

 「皇帝」。ゲルハルト・オビッツの名前は知るも、演奏に接するのは初めて。華麗な演奏歴、豪快にピアノを弾きまくるかと思っていた。

 オーケストラが和音を強奏、すぐにピアノのカデンツァ。豪快の印象はなく、むしろ穏やか。かといって弱々しいわけでもなし。

 最初のカデンツァが終わってヴィオリンが第1主題を演奏、神フィルはやはり繊細で渋い、いぶし銀の響き。ソリストとの相性は良い。「皇帝」に抱くイメージを突き破る予感。

 両者が相俟って美しい演奏が紡ぎだされた。豪快、華麗な印象の強い曲だけど、もちろん華麗さが無くは無いけれど、絵の具で言えばアクリルカラーの鮮やかさでなく、日本の伝統色の渋さ。好みもあるだろうけど、私は好き。
 第2楽章のピアノと弦の絡みなど、その最たるもの。慈悲深い「皇帝」、音楽を聴く喜び。切れ目無く第3楽章、幸せな気分のままに。

 目に付いたのが右端に据えられたバロック・ティンパニー、終えてみれば良くマッチしていた。
 ゲルハルト・オビッツは4回呼び出された。そのたびにオーケストラを祝福、人柄が滲み出ているようだ。ソロや室内楽を聴きたいと思った。

 

 「英雄の生涯」。録音も含めてR.シュトラウスを聴く機会が少ないので、あまり曲に対する印象は持っていない。CDを聴いて予習して出かけるべきだが、なかなか実現しない。

 演奏は聴き所が多い。まずはソロ・コンサートマスターのソロ、ホルン、一旦は舞台袖に下がって演奏するトランペット、コールアングレ、パーカッション。厚みを増した弦は言わずもがな。都響を3公演聴いた後の神奈川フィル、やはり固有の響きを感じた。短くいえば、芯のある繊細さ、かな。愛すべきオーケストラ。

 演奏を終えて数秒間、会場を静寂が支配した。金聖響が手を下ろさなかったこともあるだろうけれど、それに答えた客も少しづつ勉強している(不遜な表現ならごめんなさい)。静寂もまた、演奏者たちへの賛辞。

 

 「2013-14シーズンの定期演奏会」ラインアップのチラシが挟まっていた。もう、そんな時期だ。
 最後が「マーラー・第6番・悲劇的」。東日本大震災発生の翌日、埋まらない客席に向かって、金聖響が「我々ができることは音楽しかない。精一杯演奏する」と挨拶してから演奏された曲だ。聴けなかった方に向けてのプログラムと想像する。それにしても1年半を過ぎて、この国の政治は被害を受けた方々へ寄り添っているだろうか。悔いのない投票を心がけよう。

   (2012年11月25日記録)

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2012年11月20日 (火)

美術:横尾忠則現代美術館「反反復復反復」展

  名称   開館記念展I 横尾忠則展「反反復復反復」
  会場   横尾忠則現代美術館(神戸市灘区)
  会期   2012年11月3日(土)~2013年2月17日(日) 、詳細は要確認
  鑑賞日  2010年11月8日(木)

  参考   公式ホームページ

 

 兵庫県立近代美術館は、阪神電車岩屋駅徒歩10分弱の海縁に2002年に開館した。以前は、岩屋駅の山側、徒歩20分ほどに位置(最寄は阪急電車王子公園駅)し、今は兵庫県立美術館王子分館として利用されている。その西館をリニューアル、横尾忠則現代美術館が11月3日に開館した。
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 阪神淡路大震災から1年数ヵ月後、まだ会社務めだった私は兵庫県尼崎市へ転勤、7年余を過ごした。休みに各所を訪れたが、当時の兵庫県立近代美術館にも足を運んだ。多少は様子も判るし、懐かしい思いもした。閑話休題。

 横尾忠則といえば、最近はY字路をモティーフにした作品を良く見かける。一箇所で十点、あるいはそれ以上を纏めて。そこに、横尾の執着心を感じる。展覧会タイトルの「反反復復反復」もその意味であることは明白、ただし、時間軸が切り口になっている。

 例えば、女性が泳ぐ姿を描く「お堀(1966年)」。その後、「銭湯(2002年)」「お堀PartⅡ(2005年)」「お堀PartⅢ(2005年)」「人生にはゴールがない(2005年)」「噂のスイマー(2011年)」「「夜のスイマー(2011年)」「描き忘れた城壁の窓(2011年)」「海を泳ぐ(2012年)」と続く。
 Y字路は「暗夜光路N市-Ⅱ」ほか5点、原点とされる兵庫県西脇の一角だろう。

 

 変遷を面白く感じたし、執着心も感じた。繰り返し描き続けることの理解を進めるには、何がヒントになるだろうか。他人が同じモティーフ、同じような表現をすれば模倣と言われるだろうけど、自分の作品の模倣とは。それだけでなく「ルーベンスの模写」、同じテーマの「薔薇の蕾と薔薇の関係」も展示されている。単なる模倣でもない。

 芸術に模倣は禁句と思えるけど、芸術の発展過程で模倣はかなりの比重を占めるだろう。それは美術史を少し齧り初めての感想。良い模倣と並の模倣が存在する。それを探りたいが、私にはこれからの課題。

 遠くて気軽に訪れることはできないけれど、新しい個人美術館の誕生は喜ばしい。記念の意味と今後の参考のため図録を購入したけど、持ち歩くに気恥ずかしさが漂った。透明な袋に入れられた図録の裏表紙カバーの図柄、せめて不透明な袋にして欲しかった。皆さんは、どう思いますか。
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   (2012年11月20日記録)

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2012年11月17日 (土)

美術:「エル・グレコ展」

  名称   エル・グレコ展
  会場   国立国際美術館(大阪市)
  会期   2012年10月16日(火)~12月24日(月・休) 、詳細要確認
  鑑賞日  2012年11月 8日(木)
  参考   公式ホームページ

 

 国内のエル・グレコの作品は、大原美術館『受胎告知』、国立西洋美術館『十字架のキリスト』がある。
 エル・グレコ展は東京に巡回するが、関西旅行に組み込み、過日、鑑賞した。展示作品はテンペラ数点を含む51点。一部で客が二重に取り囲むことはあったが、鑑賞を妨げにもならず堪能した。国内で接する機会の少ないエル・グレコ、ファンならずとも見逃す手はない。

 

 作品は次のように大別してある。
   Ⅰ-1 肖像画家エル・グレコ
   Ⅰ-2 肖像画としての聖人像
   Ⅰ-3 見えるものと見えないもの
   Ⅱ  クレタからイタリア、そしてスペインへ
   Ⅲ  トレドでの宗教画:説話と祈り
   Ⅳ  近代芸術家エル・グレコの祭壇画:建築家として
 ここで“建築家として”とは、画を据え付ける祭壇の構成にまで配慮を巡らせるとの意味合い。最高の傑作と言われる『無原罪のお宿り』は高さ347Cm・幅174Cmもある。据え付け位置で印象が異なることは想像に難くない。

 エル・グレコは通称、本名はドメニコス・テオトコプーロス。
 生まれは現ギリシャのクレタ島、イコン画などを描いていたが20代半ばでベネッツィアへ。そこで、明るい色彩の表現に衝撃を受け、ティツィアーの工房などでイタリア絵画を学ぶ。数年後にローマへ。そこではラファエロやミケランジェロが活躍、エル・グレコもローマ随一のパトロンの宮殿に住むことになった。理由は定かでないが30代半ばにはマドリードに居住した記録が残る。と言うのが、大雑把に調べた人生前半の動向。
 明るい色彩、強めのコントラスト、大胆なタッチ、大振りな身体表現などの背景と感じられる。

 どの作品も興味深い。ステレオタイプと思えるような肖像画も、実は奥深い。Ⅰ-1に分類される『ディエゴ・デ・コバルピアースの肖像』、参考出品されているサンチェス・コエーリョ・アロンソの同名の作品と比べると良く判る。

 ほぼ最後の展示が『無原罪のお宿り』。上方に向かって揺らぐ構図、大胆にして鮮やかなドレープの描き方など、特徴が良く判る。
 上中央に聖母マリア、下半身が異様に長い。下右には花・蛇・鏡などマリアの象徴、下左にはトレドの街並が小さく描かれる。中間に描かれる天使達は、やはり下半身が長い。天子の羽は強引な感じ、特に左の天子の羽は側面から描かれており、一目見たときは黒い棒の様に思えた。
 気になったのが天使の足先の形、唐突だが『舟越保武・日本二十六聖人記念碑』の聖人の足が思い浮かんだ。浮遊する時の足先は垂れ下がるのだろう。小さく描かれたトレドの街並を思い合わせると、急速に天に向かって上昇しているとも思えた。下半身の長いのはそのためか、単なる思い付きだけど。

 

 先日、北方ルネッサンスからオーストリア・分離派に至る絵画史の講義を聴いた。スペインは含まず、咀嚼もできていないけれど、多少は画を探る契機になった。それもあって、『エル・グレコ展』は興味深かった。東京巡回の折に、再度、噛み締めたい。

   (2012年11月16日記録)

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2012年11月14日 (水)

美術:奈良国立博物館「正倉院展」

  名称   第64回正倉院展
  会場   奈良国立博物館
  会期   2012年10月27日(土)~11月12日(月) 、終了
  鑑賞日  2012年11月 7日(水)

 

 博物館企画展が風物詩になっているのも珍しい。第64回正倉院展に出かけた。
 関西在住の時は欠かさず出かけたが、離れると疎遠になる。横浜に戻ってからは初めて。おそらく7・8年ぶり、通算10回目くらい。何が面白いか、千年余を経た現実が目の前に展開することか。

 博物館脇の遊歩道のテント列は、会場の新館から本館裏手まで100m以上。入場を待つ人がそこに並ぶ。列に付いた時は1時間待ちの案内で、テント列の半分より前だった。実際は30分ほどで入場できた。

 

 今年は初出陳9件を含む総計64件、聖武天皇ゆかりの宝物が収めらる北倉(正倉院は一棟だが三分割されている)からの出陳が例年より多いそうだ。初出陳を確認できないが、以前観たものでも記憶にないものは多い。(写真は正倉院全景、第64回正倉院展図録より引用、以下の写真も同様)
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 週日にも関わらず大混雑。案内員が声を高めて「空いているところから見学して下さい」って、デパートの催事じゃない。過去10回のうちで一番過混雑していると感じた。

 独立した展示ケースに列を作っていたのが『螺鈿紫檀枇杷』。表面全面に、鳳凰などの螺鈿細工が施されている。見事としか言い様がない。螺鈿の鳳凰の顔立ちが愛嬌味を帯びている。
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 もう一つ、列を作っていたのが『瑠璃杯』。紺色のワイングラス状。完成直後のような鮮やかさ。周囲の三段の同色のガラス環がしゃれている。大きく見えるが、口径8.6Cm、高さ11.2Cmで、ワイングラスなら普通サイズ。童謡に「瑠璃や真珠の飾り窓」とあるが、ガラスは美しさの象徴。権力の象徴でもあっただろう。
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 『木画紫檀双六局(双六盤)』は象牙や木材で細工した模様が美しく、『密陀彩絵箱』は模様を描く色彩のグラデーションが美しい。指物の類の他の御物は、どれを見ても技に惚れ惚れする。

 金属器はしゃれたデザインの物が多いが往時の輝きは失い、布製品は痛み・退色の目立つ物が多い。しかし、往時の輝きを想像すれば楽しい。
 文書類は、簡単な説明はあっても理解困難なのことが残念。面白いことも書いてありそうに思う。

 

 見事な展示品を目の当りにする興奮がある。また訪れる機会があるだろうけど、混雑で展示品を良く観られないのでは出向く甲斐がないとも思う。私も多くの中の一人だから何も言えないけど。
 周囲の古社寺を巡る方が実り多いかとも思う。最近は琵琶湖周辺、近江の古社寺に惹かれることが多い。

   (2012年11月14日記録)

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2012年11月12日 (月)

文楽:11月公演「通し狂言・仮名手本忠臣蔵」(やや長文)

  作   二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳

  出演  竹本源大夫
      鶴澤寛治
      鶴澤清治
      吉田簑助
      吉田文雀 ほか

  会場  国立文楽劇場
  公演  2012年11月 3日(土)~25日(日)、詳細要確認
  鑑賞  2012年11月 6日(火)  第一部 10:30~16:10(休憩25分・5分)
                第二部 16:30~20:55(休憩25分・5分)
  参考  国立文楽劇場公式HP

 

 国立文楽劇場は9年ぶり、桐竹勘十郎の襲名披露公演以来だ。その後で横浜に戻った。横浜では地方公演もあるし、国立劇場にも稀にでかけるけど、周囲の雑踏を含めて国立文楽劇場の雰囲気にかけがえないものを感した。

 「仮名手本忠臣蔵」は文楽三大傑作の一つ。他は「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」。故吉田玉男の「菅原伝授手習鑑」の第一部だけ観て、第二部を見逃したのが今でもくやしい。などと、開演前の短い時間に思い出したり、考えたり。

 

 「仮名手本忠臣蔵」は、史実の元禄赤穂事件を「太平記」の世界の置き換えて描かれた物語で、あらすじは何となく知っている。

 『大序 鶴が岡兜改めの段』。足利尊氏の弟・忠義が鶴が岡八幡宮に代参する。華やかな幕開け、大夫が「佳肴ありといえども食せざればその味を知らずとは」と語りだすので、大阪市長の的外れな文楽批判を思い浮かべた。二度は食べた(見た)ようなので『心焉に在らざれば、食らえども其の味を知らず』が適当だろう。

 兜を改める塩谷の内室・顔世が「義貞殿拝領にて、蘭奢待(らんじゃたい)といふ名香を添へて賜はる」。蘭奢待(*1)は正倉院御物、次の日に正倉院展鑑賞を予定していたのも何かの縁か。御物の経緯は広く知られていたのだろうか。

 『三段目 殿中刃傷の段』。「鮒よ鮒よ鮒だ鮒だ鮒侍だ」と罵倒された塩谷判官が、高師直に斬り付ける。人間が演ずるよりリアル。様式化が余計にそう感じさせる。大夫・三味線と人形遣いが高度な同期、この段だけではないが。

 『四段目 塩谷判官切腹の段』。殿中刃傷を動とすれば、この段は静。大夫・三味線は、黒の裃に黒の座布団。凄いと感じたのは、大夫・三味線が長く語りを止める箇所がいくつかあった。迎える死、家来を路頭に迷わせることを語りつくせないか。静寂もまた雄弁。三味線の鶴澤燕三、好きだ。

 『九段目 山科閑居の段』。エピソードは色々あるが、討ち入りを明日に控えて、大石力弥と一夜限りの祝言を遂げる許婚の小浪、涙を誘う。豊竹嶋大夫の語りは好きだが、今回は多少クリアさを欠いたように感じられた。まあ、私の感じはあまり当てにならないけれど。

 『大詰 花水橋引揚の段』。見事に塩谷判官の敵を討ち取って凱旋。私も気持ちを弛緩させる。

 

 どの段も興味深い。特に素晴らしく感じたのは、山科閑居から花水橋引揚に跳ぶこと。討ち入りに向けてクレッシェンドしてきて、討ち入り場面は省略。結果、山科閑居に代表される四十七士や周辺の人間模様が、色濃く印象に残った。展開のスピードも緩まない。私は、そこに現代演劇のような斬新さを感じた。

 技芸員たちは、文楽批判にさらされた中でも真摯だ。確か『三段目 裏門の段』の三味線・野澤喜一郎、糸が切れて、残る二本で何事も無いように弾ききった。そういうものかも知れないが、訓練の賜物だろう。初めて見た光景。
 人間国宝、竹本源大夫、鶴澤寛治、鶴澤清治、吉田蓑介、吉田文雀が要所に登場。若手・中堅は総出だろう。残念なことは、竹本住大夫の欠場、竹本千歳大夫が豊竹呂勢大夫に交代、共に早く元気になって欲しい。

 私は舞台から床までを見渡しているのが好きだから、今回も最後列の二等席。各部2300円(東京は異なる)安すぎて申し訳ない。募金箱があれば、ささやかだが気持ちを表わしたいけど如何だろうか。
 これからは年に一度くらいは大阪に出かけよう。チケットが入手し難いなどと言わずに国立劇場にも出かけよう。

 

(*1) 正倉院御物。黄熟香(香木)、蘭奢待は別称だが、そこには東大寺の文字が隠されている。足利義政、織田信長、明治天皇が截りとった付箋があり、他に足利義満、足利義教、徳川家康が截りとったことが記録されているそうだ。参考まで。写真は平成九年正倉院展図録から引用。
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   (2011年11月11日記録)

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2012年11月10日 (土)

路上観察:関西小旅行(2012年11月6~8日)

 二泊三日の関西小旅行(2012年11月6日~8日)。目的は、国立文楽劇場「通し狂言・仮名手本忠臣蔵」と奈良国立博物館「第64回正倉院展」鑑賞。

 

 一日目は「仮名手本忠臣蔵」鑑賞。

 新横浜を6:30過ぎの「のぞみ」で出発、大阪日本橋の国立文楽劇場に9:45ごろ到着。
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 「仮名手本忠臣蔵」は初めて。一部(10:00~16:00)、二部(16:30~21:00)の長丁場。一部と二部の間で近所のホテルにチェックイン。
 素晴らしかった。前夜遅く寝て、朝早くからの行動なのに、眠気を催す閑もありませんでした。別に感想掲載。

 

 二日目。「東大寺三月堂」「正倉院展」「法隆寺五重塔」鑑賞が必須。

 近鉄奈良駅に9:30到着、東大寺二月堂まで散歩。二月堂から大和国原を見渡さないと、奈良に来た感じがしないようなもので。三月堂は修復で拝観停止中、「本尊」は東大寺ミュージアムで拝観できました。
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 急遽、東大寺戒壇院の四天王拝観を組み込み。姿良し眼差し良し、数ある四天王の中で私はこの四天王に最も惹かれます。大仏殿から少し離れただけで静謐な雰囲気が漂よっていました。
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 「正倉院展」は入場1時間待ち。過去10回ほど来ていますが、大して待つことなしに入場できたのは幸運だったのでしょう。結局、30分ほどで入場できました。それにしても凄い混雑。別に感想掲載。

 

 バス・電車・徒歩で、法隆寺に15:15到着。予定より小一時間の遅れ。

 「五重塔初層」の塑像群を鑑賞しました。塔内には入れません。さらには細かい目の金網で前面が覆われているし、自然光による影で、鑑賞は期待はずれでした。TV映像のような訳にはいきません。
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 金堂、講堂には中学生の団体が一組、後は個人観光客が少々、静かな雰囲気で拝観できました。大宝蔵院では、夢違観音、百済観音、玉虫厨子、橘夫人厨子。閉門時間が迫っていたので国宝を拝観。夢殿は、救世観音が開扉中で幸運、行信僧都像、道詮律師像に、遠き世の仏師の技を感じました。
 単眼鏡持参しましたが観るとはどういうこと。結局は観た気になっただけでしょうか。
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 三日目。「国立国際美術館・エルグレコ展」「香雪美術館」「横尾忠則現代美術館・反反復復反復展」鑑賞が必須。

 朝一番で「芭蕉終焉の地」見学を割り込ませました。日本橋から散歩で難波別院(南御堂)へ。境内左手に芭蕉句碑「旅尓病てゆめは枯野をかけまわ類 ばせを」が。「此附近芭蕉翁終焉ノ地ト傳」碑は、南御堂を背にすれば、左45度前方の向こう側の緑地にありました。
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 「香雪美術館」は展示替え閉館中、休館日は確認したのですが調査不足でした。企画展でなく、美術館自体に興味があったので、次の機会を待ちます。

 「エルグレコ展」は東京へ巡回、とても良かったのでもう一度鑑賞します。「反反復復反復展」は、同じテーマを繰り返し描く画家の執念を感じました。共に、別に感想掲載。
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  (2010年11月10日記録)

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2012年11月 2日 (金)

音楽:東京都交響楽団マーラー・ツィクルス第1期 ツィクルス3

  指揮    エリアフ・インバル

  独唱    池田香織(メゾソプラノ)

  女性合唱  二期会合唱団(合唱指揮=長田雅人)
  児童合唱  東京少年少女合唱隊(合唱指揮=長谷川久恵)

  演奏    東京都交響楽団

  曲目    マーラー:交響曲第3番二短調

  会場    横浜みなとみらいホール(3階1列18番)
  公演    2012年10月27日15:00~16:45(休憩なし)

 

 1ヶ月余の間にインバル・都響のマーラー交響曲第1~3番を聴いた。毎回、本格的なマイク・セッティングがなされているのでCD化されるのだろう。それにしても凄い勢いで進行している。

 マーラーの交響曲は長大で、編成も大規模なものが多い。第3番の演奏時間は100分ほど、編成は弦が16・14・12・10・8で、ホルン8、ティンパニー2を含む打楽器が目に付く。独唱・女性合唱・児童合唱も加わるからなかなか大変な曲だと思う。

 第1楽章はホルンのユニゾンで始まり、短いトゥッティが絡んで聴き手を一気にマーラーの世界に誘い込む。30数分を要する楽章だから聴き所は多いけれど、管やヴィオリンのソロも強く印象に残った。短い第2楽章が終わると独唱・合唱が入場する。第4楽章で、アルトがニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」からの1節を神秘的に歌ったが、この曲では充分に活躍できる役割が与えられているとは思えない。第5楽章で、明るい調子の合唱・独唱が爽やかだ。歌詞を確認すれば、内容は一概に爽やかとは言えない。切れ目なく続く第6楽章もかなり長く、30分弱を要する。二式のティンパニが印象的だ。

 

 インバル・都響の演奏は良く鳴っているし、爽やかなところは爽やかに、重厚なところは重厚に演奏されていて美しいと思う。音のバランスは録音のようにはいかないところもあるけれど、多少バランスが悪くても生で聴ける喜びは大きい。都響を聴いたのはマーラー・シリーズの3回のみだが、他の曲、他の指揮者で聴きたいと思うようになった。

 都響の演奏を聴くきっかけは、神奈川フィル定期会員である私はここ数年、他のオーケストラを聴いたのは数えるほどで、それもまずいかなと思ったことにある。予ねてからインバル・フランクフルト放送響のマーラー全集を聴いていたから、インバル・都響の組合せは絶好のチャンスと思った次第。

 第1~3番を聴き終わって、色々な意味で良かったと思っている。音楽界は広いとも。神奈川フィルを縦糸とすれば、他オーケストラは横糸に位置づけよう。幸い横浜公演するオーケストラは多い。恵まれた環境を活用して、いろいろ聴く機会を持ちたい。少なくともインバル・都響の演奏はそう思わせた。
 用ありで4番を聴けないのが残念だ。

 プログラムに「指揮者のタクトがおりるまで、余韻をお楽しみください。」と注意書きがあった。お互いに心したいものだ。

   (2012年11月1日記録)

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