映画:ベニスに死す
製作・監督 ルキーノ・ヴィスコンティ
脚本 ルキーノ・ヴィスコンティ、ニコラ・バラルッコ
原作 トーマス・マン「ベニスに死す」
音楽 グスタフ・マーラー
出演 アッシェンバッハ:ダーク・ボガード
タジオ :ビョルン・アンデルセン 他
参考 公式サイト
場所 シネマ ジャック&ベティ
鑑賞 2012年1月5日
ほの暗い海原を小さな蒸気船がゆっくり進む。色彩を失った画面にマーラーのアダジエットが重なる。抑制された始まりだ。
初老の作曲家・アッシェンバッハ、原作では作家だったと思うが、は静養のために訪れたヴェニスのリドの優雅なホテルで、母親等と共に滞在する美しい少年・タジオを見初める。アッシェンバッハのタジオに対する思いはホテルや浜辺に少年の姿を探し求めるようになる。
滞在客は潮が引くように去り、街中の消毒が始まる。疫病の蔓延、タジオから離れがたいアッシェンバッハはやがて罹患する。やつれた顔を隠すように白粉・口紅を塗り、白髪を染める。ある日、浜辺のデッキチェアにもたれてタジオの様子を見ながら、満たされたような笑みを浮かべて死を迎える。黒い汗が顔に筋を描く。
描かれるのはクレッシェンドするアッシェンバッハのタジオへの思い、美しさの探求。あるいはアッシェンバッハの視線を意識してじらすようなタジオの振る舞い。単純なストーリー、台詞も多くは無い。しかし飽きることなど無い。
若さは美、老いは醜。ドイツの作曲家、美の求道者であるアッシェンバッハの内なる両者の対峙は、耐えがたい苦しみを伴う。苦しみから逃れる手立ては死を賭してのタジオへの思いの完結か。
結末を知る私(観客)は描かれ方に、内面をを炙り出す音楽の響き方に、興味は向かう。
この映画を名作たらしめているのは、アッシェンバッハを演じるダーク・ボガードの渋味ある演技、死の直前の満ち足りた微笑が印象深い。そしてタジオを演じるビョルン・アンデルセンの美しさ。容姿の美しさ、立ち居振る舞いの美しさ、そこに演技でない生まれた時から磨き抜かれた美しさを感じる。ビョルン・アンデルセンなくしてこの映画は成立しなかっただろう。
ニュープリントの画面も美しい。一部に多少の傷を認めるが気になるほどのことはない。音楽は多少鮮明さに欠けるが、40年前の作品であることを思えば仕方ないだろう。初めてスクリーンで観た。原作を読み直したい思いがした。
(2012年01月07日記録)
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