最近の読書から:『観光アート』
1.『観光アート』 山口裕美、光文社新書488
「観光アート」は言葉としてこなれないが著者の造語、「アートを見ることを目的とした旅」「アートを活用した観光、まちおこし」の意味合いを内包する。意味に彼我両方の視点があるのは、著者がアートイベントやプロジェクトに関わってきて彼我の仲介役を意識しているからである。
しかし、読者の多くが「アートを見ることを目的とした旅」に関心があるとするならば、本書の後半を占める「第4章 一度は訪ねてみたい美術館100」から、好きな美術館を選んで出かけたら良いようなものだ。
多くは知らないが、それでも新鮮な話題を振りまいてくれる美術館、古くに設立されたにも関わらず今も輝きを放ち続ける美術館が含まれている。
とは言いながら、どうして「観光アート」のような動きが顕著になってきたかを知ってから旅に出ることも、より良い鑑賞・旅のためには必要だろう。「第1章 観光と現代アート」で大まかな知識が得られる。まあ、疑問が続出するかも知れないのだが。
「第2章 現代アートの新名所」では、香川県直島の地中美術館、十和田市現代美術館、金沢21世紀美術館などが紹介されている。「第3章 アートプロジェクトの新潮流」では、新潟県十日町市を中心に開催される越後妻有アートトリエンナーレや横浜トリエンナーレが紹介されている。
行く先を決めかねるなら、ここで取り上げられている美術館やプロジェクトをまず目的地としたら良いだろう。
私は専門家でなく、生活の潤いとしてアートに接するだけだ。横浜在なので東京・横浜周辺の美術館には時々出かける。年に数回は本書で取り上げられるような遠方の美術館に出かける。「観光アート」を実践してきたようなものだが、私の場合、知識は後付けだった。それも悪くなかったが。
生活に潤いを付け加えたいと思う方は、「観光アート」というコンセプトに立ち入ってみては如何か。本書はその手掛かりを与えてくれるだろう。新書の性格上、最小限の白黒図版しか挿入されていないが、各美術館のホームページなどを参照することで、立体的な知識が形成できるだろう。
(2011年9月14日記録)
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