演劇:利賀フェスティバル2010・第一日目
「SCOT Summer Season 2010」、「利賀フェスティバル」の方が通りが良いか。8月26日は「新・帰ってきた日本」「授業」の二公演を観た。
1.SCOT「前衛漫画劇 新・帰ってきた日本」
構成・演出 鈴木忠志
出演 斉藤真紀 患者1・日本の母親
植田大介 患者2・日本の落ちこぼれ
大久保美智子 患者3・任侠研究家
新堀清純 患者4・中国の渡世人
塩原充知 患者5・韓国の渡世人 他
会場 新利賀山房
公演 2010年8月21・26・27・28日
狂気の下で演じられる侠気。長谷川伸・沓掛時次郎が底流。演出ノートはここ。
「これが大根おろし。これが人参おろし。大根おろしを人参おろしに混ぜると、紅葉おろし(笑)」、言い回しは多少違うかも知れないが、こんな出だしである。この後、紅葉おろしには栄養がない云々。
出だしのねちっこい言葉のやり取りは鈴木忠志の得意とするところ。役者がペンギンのように小刻みに足を動かして移動する様は笑いを誘う。しかし、全体に理解は進まなかった。
舞台が病院であり、登場人物は患者である。この設定は多くの鈴木忠志演劇に共通する。しかし、日本の母親、日本の落ちこぼれはともかく、中国の渡世人・韓国の渡世人。以下、モンゴル・ベトナム・インド、そして朝鮮の将軍。
日本の落ちこぼれと義理を重んじる中国の渡世人が、切りあいを数回繰り返す。音楽で言えば変奏。
全体を支配するものが何か、考えてもそんなもの判るわけない。元首相だってそれですませたことがある。まあ前衛漫画劇なので、判ろうとしても無駄かも知れない。再演、再々演されるだろうから、観ていればいずれ少しは判るだろう。そう思って利賀に何回通ったことか。
2.百景社「授業」
演出 志賀亮史
作 ウージェーヌ・イヨネスコ
出演 村上厚二 教授
山本晃子 若い女性と
鬼頭愛・栗山辰徳・梅原愛子・国末武 女中
会場 野外特設・岩舞台
公演 2010年8月26日
志賀亮史は2009年、イヨネスコ作「授業」で利賀演劇人コンクール優秀演劇賞(演出)を受賞。
イヨネスコの不条理劇。教授のもとに若い女性が訪れ、個人授業を受ける。初めは熱心に授業が続いている。時間が過ぎて、若い女性は歯の痛みを訴える。徐々にひどくなる様子。それに関わらず、教授の授業は科目も変わり、急速に難解になっていく。まるで若い女性を屈服させるように。
舞台は暗転しないが、舞台前面を幕で覆う。野外では、月が出ていれば暗転は不可能だから。って、それは私の思い。
そして幕に血しぶきが飛び散り、幕が外されると、そこには全裸で殺されている教授が横たわっている。
全体に快いテンポで、軽やかな演技は、不条理劇であることを忘れそうになる。別に重々しく演じることが必須でもない。しかし、教授はなぜ殺されてしまうのか。
原作と異なる点が二つ。一つは、原作で独りの女中が四人いること。一つは、原作は若い女性が殺されること。
四人の女中は出演者を増やすためかも知れない。しかし、壁に耳あり障子に目ありの意図が感じられる。密室の中の出来事などないと言うように。そう言えば、時々、女中が教授に授業の進め方を注意したりする。
教授殺されてしまう動機が何か。若い女性が歯の痛みを訴えるにも関わらず授業が継続することへの逆切れか。
原作では若い女性が殺されるので、意味は全く異なる。授業に持ち出したナイフが重要なポイント。女中の、これで40回目ですとの台詞が重い意味を秘めているのだろう。
不条理劇の結末を変えて不条理劇になっているか、それが気になるけれど、「新・帰ってきた日本」を見た後だけに軽やかさが何とも心地良かった。
写真は冒頭場面、写真を撮ったら電源を切るようにと。サービス精神を含んで、しゃれた案内になっていた。
(2010年8月31日記録)
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