« 演劇:国立劇場第78回歌舞伎鑑賞教室(2010年7月26日) | トップページ | 美術:横須賀美術館「鉄の響きに耳をすます」 »

2010年8月 1日 (日)

美術:「浜田知明の世界展」

  名称   版画と彫刻による哀しみとユーモア 浜田知明の世界展
  会場   神奈川県立近代美術館葉山館
  会期   2010年7月10日(土)~9月5日(日) 、詳細は要確認
  鑑賞日  2010年7月31日

 

 浜田知明の初年兵哀歌シリーズが強く記憶に残る。弱者に及ぼす戦争の悲惨さが強く滲み出た作品。エッチングによる素朴な作品ゆえに、かえって深い悲しみに誘われ、共感が湧きあがる。

 1917年生まれの浜田知明は現在92歳、今も版画家・彫刻家として活躍している。数年前、訪れた熊本県立美術館の浜田知明室で多少まとまった作品を観た。ただそれほど展示作品が多くなかった。印象が強いわりに、いままでに観た作品は多くない。

 

 「浜田知明の世界展」は、現在までの創作活動の全貌を確認できる。作品数は実に多く、展示は次のように分類されている。

   1章  <初年兵哀歌>シリーズを中心に
   2章  1956年から「わたくしのヨーロッパ印象記」まで
   3章  1970年以降2000年まで<哀しみとユーモア>
   4章  彫刻
   5章  初期油彩と最近のデッサン

 空洞のような目からは一粒の涙、銃口を首にあてがい、左足でまさに引き金を押そうとする「初年兵哀歌<歩哨>」。立てかけられた銃の影が延び、傍らで眠るの兵隊は芋虫の姿に描かれた「初年兵哀歌<銃架の影>」。
 初年兵哀歌シリーズの作品は浜田知明の原点、国を守るという掛け声の下、理不尽な扱いを受けた弱者の気持ちが一瞬にして伝わる。これらの作品は何回か観たし、私の中では、浜田知明=初年兵哀歌シリーズの思いは強い。観終えて、その思いが覆ることはなかった。

 以降の作品は、戦争が直接表に出ることは少なく、もっと根源である人間の愚かさや虚しさ、哀しさに向かう。場合によってはユーモアに押し込められて。

 彫刻は、版画で取り扱われたモティーフの立体的表現のようだ。表現が具体化するゆえに想像は限定される。

 

 浜田知明は戦争に駆り出され、理不尽な扱いに自ら死を選択しようとしたこともあったようだ。初期作品に、その体験は色濃く反映されている。しかし、その体験は今になっても薄らぐことはないようだ。戦争の悲惨さ、権力への抵抗が創作の底流に流れていることを強く感じる。

 観て思い、改めて作品リストを眺めて確かめた。自画像が東京藝術大学美術館蔵であるほかは、熊本県立美術館蔵と神奈川県立近代美術館蔵の作品で構成されている。熊本県立美術館は、地元の作者であり収集に努めることは当然と思える。神奈川県立近代美術館に多くの作品が収蔵されていることは、確かな収集方針によるものだろう。多くを知らないが、神奈川県立近代美術館の残してきた足跡は大きいと改めて感じた。

 土曜日の昼下がりであったが客は少なかった。暑さの盛りだが、もう少し多くの方に足を向けて頂きたい。
 折りしも8月6日、9日、15日とアジア太平洋戦争の記憶を確認する日が巡ってくる。浜田知明の作品に対峙して、戦争の悲惨さに思いを馳せることも意義あること。そして、いろいろな方法で平和を希求することが大切だ。

   (2010年8月1日記録)

| |

« 演劇:国立劇場第78回歌舞伎鑑賞教室(2010年7月26日) | トップページ | 美術:横須賀美術館「鉄の響きに耳をすます」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 美術:「浜田知明の世界展」:

« 演劇:国立劇場第78回歌舞伎鑑賞教室(2010年7月26日) | トップページ | 美術:横須賀美術館「鉄の響きに耳をすます」 »