演劇:SCOT「シラノ・ド・ベルジュラック」 (2010年7月17日)
原作 エドモン・ロスタン
演出 鈴木忠志
出演 喬三(シラノ) 新堀清純
クリスチャン 藤本康宏
ロクサアヌ 内藤千恵子 他
会場 新国立劇場中劇場
公演 2010年7月16日(金)~18日(日)
鑑賞 2010年7月17日 15:00~16:30(休憩なし)
第17回BeSeTo演劇祭の参加作品。
物語は原作を断片化して要所を繋ぎ合わせた。本歌取りによる新たな物語が創作された。原作を理解していれば面白さは倍加する。
舞台中央に文机。背後、上手から下手に及ぶ数列の花生垣。下手に花をつけた大きな木。下手後方に数奇屋造り風の家。舞台後方の大黒幕上部に合掌作り民家を思わせる窓枠が吊るされている。日本の伝統的な風景を思わす。
文机に座する喬三。和服に袴をつけ、とんびを羽織っている。物語は、喬三自らがシラノを演ずる、喬三の空想として展開する。シラノ以外の出演者も和服、すべてが日本的風景に同化する。
ところが、音楽は「ベルディ・オペラ椿姫」の前奏曲などが使われる。甘美なメロディー。
アンバランスであるが、すべてが美しさに向けて焦点を結ぼうとしている。鈴木演出において珍しいことではない。
追求されるのは、男のやせ我慢、せつない男の美学。愛する人に自分の心情を吐露できないばかりか、同じ人に思いを寄せる友人の愛を成就させようと助力するシラノ。
「シラノ・ド・ベルジュラック」を観るのは3・4回目、場所は新国立劇場・利賀フェスティバル。
出演者は、喬三ことシラノの新堀清純は変わりないが、他は入れ替わっている。気になったのは脇の弱さ。
出演者間の緊張感が様式美を生み出すのだが、今回はアンサンブルに難があり、様式美が後退した。
すべてが美しさに向かうのに、出演者の焦点がずれていたのは残念なこと。身体表現の成果は一朝一夕で実を結ぶものではないとすれば、解決にはしばらく時間を要するだろう。
最後、喬三ことシラノが「これが男の心意気・・・」と叫んで文机に突っ伏すと、空から白いものが落ちてくる。雪だろうか、花びらだろうか。永遠に続くかのように降り続ける。やがて起き上がり、蛇の目傘を差して舞台後方に退いて行く。
実に美しい幕切れ、全てはこの場面に向けてクレッシェンドする筈だが、途中に難あり。終わりよければ全て良し、とはできない。
新国立劇場中劇場は大きすぎるかもしれない。客席はほとんど埋まっていたが、舞台が埋まっていないと感じた。
音響も気になった。繊細さが不足、良い音とは感じられない。
(2010年7月20日記録)
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