舞踊:ピナ・バウシュ「私と踊って」(2010年6月12日)
演出・振付 ピナ・バウシュ
出演 ブッパタール舞踊団
アン・エンディコット
ウルス、カウフマン 他
リュート演奏 アンドレアス・リンベルク
会場 新宿文化センター・大ホール
公演 2010年6月8日(火)~6月13日(日)
鑑賞 2010年6月12日 14時00分~15時30分(休憩なし)
参考 日本文化財団公演案内(映像あり)
当日公演をNHK収録(放映予定は不明)
ベルが鳴ったかも定かでない。開演時間も過ぎた。もう始まっているのだろうか。
舞台の前後中間に幕が降りている。幕の中央やや左手に人が立って通れるほどの長方形の切欠き。
舞台はほの暗く、客に背を向けたデッキチェアに男一人座っている。男は幕の切欠きから奥の様子を伺っているようだ。切欠きの向こうは明るく、歌いながら和になって跳ね回っているようだ。
やがて幕が上がり、舞台は照明に照らし出される。
ほぼ左右一杯に広がる白いスロープ、形状はスノーボード競技・ハーフパイプの半分と思える。後方が高く客席に向って落ちて、前後中央から前方は平坦。舞台中央に、葉を落とした何本かの木が横たわっている。
ダンスと言えばダンスであろうが、ひたすら美しさや技巧を求める類ではない。演劇と言えば演劇のようでもあるが、重心は身体表現に傾いている。ダンスと演劇の境界領域のパフォーマンス、ダンスシアター(独:ドタンツテアター、Tanztheater)と言われる所以である。
パフォーマンスは音楽と共に進行する。
音楽は古いドイツ民謡より採られたもの、リュート伴奏、独唱、合唱の形式。独唱、合唱はメンバーによる。歌のタイトルは末尾に示すが、歌詞(原詞は独語、対訳あり)には、暗い悲しい言葉が少なくない。
パフォーマンスは、常に暴力的な雰囲気を漂わせている。
喜怒哀楽、様々な感情をもって女は男に向って「私と踊って」「愛して」と懇願する。ドレスを替え、化粧し、媚をうる。女というジェンダー。
スロープ上から滑り降りる男達。木を鞭のように叩いて女を追い回す男達。木を用いて女をスロープに追い込む男達。デッキチェアーに座って女を見つめる男。
最後近く、二本の大きな木がスロープに落とされ、滑って止まる(客席に飛び出さない配慮あり)。驚きと緊張感が漂い、舞台は乱雑に。障害物をを避けるようにしてパフォーマンスは続く。
表現されたのは男と女の愛であり、持続する暴力的な雰囲気は男に支配される女の暗示。そこには、古い女というジェンダーからの脱出が意図されていることを強く感じた。
今回を含めてピナ・バウシュは三公演を観た。「カフェ・ミュラー、春の祭典」「フルムーン」、そして今回の「私と踊って」である。その中でもっとも暴力的な表現と思えるのが「私と踊って」であった。
初演順に並び替えれば、1970年代中・後半の「春の祭典」「私と踊って」「カフェ・ミュラー」、そして2006年の「フルムーン」。なるほど、若きピナ・バウシュのエネルギーがほとばしっているのだろう。
パフォーマンスの所々に見られる振付に、やはりダンスだと感じる部分があった。例えば、男達が肩を組んで一列に並び、その中央に女が挟まり、ステップを踏みながら前に出てくる場面。小さく上下する身体、前後させる右足、和を描く右足。単純な動作が短く続くだけだが気持ちが弾んでくる。
女、アン・エンディコットはオリジナル・キャスト。オペラグラスに映る容姿に年輪を感じるが、揺ぎないパフォーマンス。
女はダブル・キャスト、もう一人はジュリー・シャナハン。今さらどうにもならないけど、こちらも観たかった。
ピナ・バウシュの初来日は1986年、今回公演を含めて12回。そのうち最後の三公演に接し、行きたくて行けなかったのが数公演。昨年にピナ・バウシュは急逝し、暫らくは遺産が残るとしても、これからどうなるか誰も判らないのだろう。創作過程を知れば、残念だが継続は相当困難と思える。時が結論を導いてくれるだろうが、その足跡は長く語り継がれることだろう。
入口正面にピナ・バウシュの大きなポートレイトが飾られ献花が。ロビーに過去公演の写真が展示されていました。合掌。
補足:
私と踊って
01.パッカ、パッカ、お馬が駆ける 合唱
02.私は夜、夢をみた 独唱
03.お姉ちゃん、いつお家に帰るの? 独唱
04.血には血を 独唱、リュート伴奏
05.ひそやかに月がのぼる 独唱
06.三人の天使が甘美な歌を歌った 独唱、リュート伴奏
07.あの娘は薔薇の木のようだ 独唱
08.シナイの山に 独唱、リュート伴奏
09.夕べの歩み 独唱
10.恋のなげき 独唱
11.迷い草 独唱
12.金のゆりかご 独唱、リュート伴奏
13.愛の痛み 独唱、リュート伴奏
14.春の世に霜が降りた 独唱、リュート伴奏
15.王様にふたりの子供がいた 独唱
16.鎌音をならせ 独唱、リュート伴奏
17.いま一日が終わった 独唱
血には血を
18.夢 独唱
19.ひそかななぐさめ 独唱
(2010年6月15日記録)
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