随想:ゆく春を惜しんで(201年04月13日)
俳句・短歌に代表される短詩型文学を鑑賞すると、言葉少ないがゆえか、自分の思いの広がることがあります。もちろん、それ以前に打ちのめされてしまうことのほうが多いのですが。
ふと読み返した「歌仙の愉しみ(*1)」の「鞍馬天狗の巻」の最後の三句に、なにか懐かしい思いのする春を見つけました。
春 だいじに摘んだ萌ゆる早蕨 信
春(花) 西行のえにしの寺の夢しだれ 乙
春 大和へゆくと切符買う春 玩
これは連句という短詩型、長句(五七五)と短句(七七)を交互に連ねます。しりとり遊びは、前の語の最後の音を次の語の先頭につけて続けます。が、連句は前の句の雰囲気を見定めて、物語を紡ぐように次の句を展開します。
早蕨から志貴皇子「石激る垂水の上の早蕨の 萌え出づる春になりにけるかも」に繋がります。実際に詠まれた場所を知りませんが、私は大和・飛鳥の小さなせせらぎが思い浮かびます。
西行のえにしの寺とは近つ飛鳥の弘川寺(ひろかわでら)、西行終焉の地、辞世「「願わくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ」や「ほとけには 桜の花をたてまつれ 我が後の世を 人とぶらはば」が思い浮かびます。
関西居住のころ、四月初めに何回となく訪れました。桜には少し早いのですが、それだけに人は少なく、静寂さに包まれました。(写真は、弘川寺と西行墓、2002年3月31日)
吉野へは二度出かけました。奥千本の西行庵まで行きましたが、二度とも四月下旬で桜の盛りには少し遅かった記憶があります。今、吉野は中千本の桜が満開とか。時間的には自由になりましたので、今すぐにでも切符を買って旅立ちたい思いがします。ただ、別の旅行を計画しているので今年は無理です。
今春は、気温がジェットコースターのように急上昇・急下降、あるいは冬に戻ったかのように変化しました。それでも咲き誇る桜をあちらこちらで見ました。でも今ひとつ堪能した気持ちから程遠いものがあります。
横浜の春はそろそろ終わりです。ふと読み返した本の中に屈託のない春を見つけました。鬼が笑うかも知れませんけど、来年四月は吉野行だと早くも決めました。
*1 引用 「歌仙の愉しみ」大岡信・岡野弘彦・丸谷才一、岩波新書・赤1121
*2 参考 「連句入門 芭蕉の俳諧に即して」東明雅著、中公新書508
以下は連句に関する受け売りです。興味があれば先に進んでください。
歌仙は、長句と短句を36句続ける形式。他に50句続ける五十韻、100句続ける百韻などがあります。連句を作ることを巻くと言いますが、一人で巻くのが独吟、二人が対吟、三人が三吟。通常は複数。
引用は歌仙の名残の裏、31~36句目から。歌仙の場合、懐紙二枚を二つ折にして束ね、一枚目が初折、二枚目が名残の折。各々表裏があり、1~6、7~18、19~30、31~36句を記します。実際の折り方はもう少し細かいようですが。
最後の句が挙句。「挙句の果てに」の語源です。すなわち、巻くのが楽しくて、37、38句とはみ出してしまうこと。
ちなみに、最初の句が発句、後にこれが独立して俳句に至ります。
連句を続けるためのルールが式目。その一つが、歌仙の場合はニ花三月。花を詠み込んだ句を二つ、月を詠み込んだ句を三つ、特定の場所で出すこと。展開に変化をもたせる工夫でしょう。連句における最も華やかな部分。
ちなみに「花を持たせる」の語源。すなわち、華やかな部分であるゆえ、お客様や長老にその場所を譲ること。
見たところ連句と全く同じ短詩型に連歌があります。連句とは俳諧味を帯びた連歌のこと。俳諧とは、こっけいとか、面白みを帯びたという意。
確か大岡信の著書中に「これを知って目の上のうろこが落ちた」と書いてありました。それを見た私も目の上のうろこが落ちました。随分と前のことです。
私は実作したこともなく、底は浅いのですが、それでも時々鑑賞して楽しんでいます。もしこれ以上に興味をもたれた方は参考文献やインターネットでいろいろ調べて下さい。
(2010年4月13日記録)
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コメント
本当によく勉強していらっしゃる!
私は何の事前準備もないまま俳句を始めてしまいましたので、
最初からつまずきっぱなし。
でも、懐が深いから、私のような超初心者も末席に加えてもらっています。
難しいけれど、楽しいですよ。ぜひF3さんも挑戦してください。
そして、いつか一緒に吟行しましょう!Straussさんとそんなことを企んでいます。
投稿: salala | 2010年4月13日 (火) 22時57分
勉強を目的としているわけではありません。多少の知識が増え
れば良いかと、小説を読むと同じように、短詩型関連の本を読ん
でいるだけです。好き嫌いは言えても、良い悪いはなかなか言え
ないので。ゆえに、実作は今まで殆ど考えていませんでした。
Salalaさんは、静岡で始めたのですか。
投稿: F3 | 2010年4月14日 (水) 15時05分
はい。
私は地元掛川市の俳句会にいれていただきました。
まだ句会には一度しか参加してませんが、
和やかな中にもぴりっとした緊張感があってとても新鮮な気持ちになりました。先日初めて投句したんですよ。どんな講評をいただけるのか、今からドキドキしています。
こんどこっそりお教えしますね!
投稿: salala | 2010年4月15日 (木) 22時33分