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2010年3月 9日 (火)

随想:記録映画「バッコスの信女」を鑑賞して(2010年3月8日)

 どこのサイトか既に不明ですが、記録映画「バッコスの信女」を上映するとの案内をインターネットで見つけました。何を差し置いても、って大したことがある訳ではありませんが、本日出かけましたので報告します。

 まず実施詳細は次のとおりです(プログラム転記)。

   主催  日本女子大学文学部・文学研究科
   共催  楽劇学会

   古典演劇の東西 ---女性・映画・演劇---

   羽田澄子監督記録映画作品「バッコスの信女」上映
   (出演=観世寿夫・白石加代子/演出=鈴木忠志)

   平成22年3月8日(月)午後1時開演
   日本女子大学目白キャンパス成瀬記念講堂

   プログラム(時間は、いずれも予定)
    13:00 開会
    13:05 上映に先立って(羽田澄子氏にきく)
        羽田澄子監督作品「鈴木忠志演出<バッコスの信女>」 (92分)
        出演:観世寿夫・白石加代子ほか
    15:20 休憩
    15:30 座談会 古典演劇の東西(90分)
        観世銕之丞氏・石井倫子・みなもとごろう・児玉竜一
    17:00 閉会

 休憩が15時10分過ぎから始まった以外は、プログラムどおりに進行しました。「羽田澄子氏にきく」の概要は次のとおりです。

 

 岩波ホール・演劇シリーズは「第1回・トロイアの女」「第2回・東海道四谷怪談」「第3回・バッコスの信女」、これで終わり。その後、映画ホールに。「トロイア」は知らない。「四谷」の時、高野悦子(岩波ホール総支配人)から記録しないかと言われ、撮影。「バッコス」も撮影。今回の上映のため編集したと聞いたが、フイルム痛みの修正のみである。30年前のまま、作ったまま公開していない。東京女性映画祭(2007年)が初めて、今回が2回目。30年の間ホールスタッフのみ(が鑑賞?)、そのまま保管。「四谷」も30年(保管)、昨年公開(2009東京女性映画祭)。そのまま撮るのは「四谷」が最初。

 「四谷」は客が入った状態で、「バッコス」は通し稽古の時、客はいない。客がいてもいなくとも撮り直せないので緊張する。「四谷」は客で緊張。TVだと何台もカメラを使う、フィルムが切れることもない。16mmカメラは10分撮影できた。フィルムチェンジ対応のためカメラ3台使用。脚本を参照してカメラの分担を決めた。NHKにも記録が残っている。今日のはアップが多い。TVは引いて延々と撮る。稽古を見てアップの指示。映画としても面白く。「四谷」は稽古を見ないで。「バッコス」は稽古で何をやっているか、衣装なしも見ていた。古い資料を見たら、細かいカット割をしていた。

 (稽古の様子が舞台の前に入っている。鈴木メソッドの練習風景が入っている。日本の古典的な動き。日本独特の(動作の)ナンバ。最近の若い人の体形とは異なる。近代演劇では如何に消化するか、西洋のものを日本的に)

 鈴木忠志のインタビューは稽古の合間に行った。自分は見ていなかった。びっくりした。ショックだった。10分少々。インタビューは、羽田の判断。

 舞台を撮るのはこれが初めて。狂言は撮ったことがあったがべったりではない。フィルムが切れないように設計。歌舞伎、仁左衛門。

 (92分でノーカット)

 (映画には映画の手法、舞台には舞台の手法、演劇の視点で創られている。アップする場所を指示して。緊張感は高かった。

 (映画監督・羽田澄子と演出家・鈴木忠志の共作と言える)

 岩波(映画)は監督と言わずに演出家と言う。ドキュメンタリは監督するわけでない。

 (一気に演出家の意気を感じる)

 撮ったことは覚えているが。あの頃、こんなにうまく撮ったんだ。

 

 この後上映。16mmカラー。映像は鮮明。多少の感想を次にまとめます。

 観世寿夫は名前を知るのみ。鈴木・白石・蔦森は若い、当然だが。実にテンション高く演じられている。生の舞台を観なかったことは返す返すも残念。鈴木演劇を観た方はご存知かもしれないが、紅白幕の女が既に存在しています。歌謡曲の利用も既に行われています。最後の場面は「襟裳岬・森進一」。実によくマッチしている。森進一の声もつやつやしています。

 映像はかなり緻密に撮られていると感じました。全身アップが多いと感じましたが、全体に違和感はありません。最近の映像はやたらに場面を細分して撮るので不快感を催すことが多々ありますが、そのような部分は皆無です。記録に徹してはいるのですが、ロングショットの多用で無難に済ませてはいません。対象の創作性を損ねない映像の創作性、そのような表現が通じるか否か不明ですが、そのように思いました。

 この記録映画が、再びお蔵に眠ってしまうのも実にもったいない。多くの人に見てもらう機会のあることを希望したい。なお、上映後の座談会も興味深いものがありましたが、残念ながら断片しか記録しなかったので省略します。

 

 最後に、貴重な記録映画の上映を公開して頂き、かつ上演台本を含む貴重な資料集を配布して頂いた主催者に厚くお礼申し上げます。

  (2010年3月8日記録)

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コメント

私がこの記録映画を観た東京女性映画祭からもう2年以上経っているんですね。
上映する環境(TPO)がないのでしょうか。
いつだったか、静岡(芝居)の帰りにバスの中で隣の席の方とこの映画の話をしていたら、前に座った男性から羨ましいといったニュアンスではなしかけられました。
本当に観たい方々がもっと簡単に情報を入手でき、上映する方法はないものでしょうか。
もったいないですよね。
資料、楽しみにしています。

投稿: strauss | 2010年3月10日 (水) 23時21分

 道を間違えたりして昼食をとる時間がありませんでした。会場は歴史的建造物(明治時代、別の興味あり)で、最近設置したらしい空調が利かず、寒い中での4時間でした。でも前後の話も含めて、興味深いものがありました。

 16mmフィルムで撮影されていますが、スクリーンと会場内のディスプレイに投影されていたのでディジタル化はされている筈です。ディスプレイは会場の構造上、舞台が死角になる場所があるので常設されているようです。

 推測ですが、記録映画として撮影しているので知的所有権関係がクリアできないのではないでしょうか。当日は学術的上映でしょうし、東京女性映画祭も類似目的ではないでしょうか。それにしても少なからず観たい方もおられるでしょうし、残念なことです。
 権利関係が抵触しなくとも、商業ベースに乗るかの問題もありそうです。私ももう何回か観たいと思います。一度できちんと見ることができないもので。

 「トロイアの女」はDVDで市販されていることを知りました。近々、図書館に探しに行きます。なければ、その時に考えます。
 横浜の放送ライブラリーで利賀フェスティバル関係の記録を探しましたがありませんでした。「リア王」がNHK教育TVで放映されたのは観ていますが。
 観たいと思ってもなかなか実現しません。

 資料は大きな郵便局で10日午後発送しましたので、12日には届くと思います。

投稿: F3 | 2010年3月11日 (木) 01時20分

「バッコスの信女」を見るために暗闇の早稲田を彷徨ったことを思い出します。とうとう見ることができなかった残念な思いは今も残っています。そのあとNHKの放映があって鑑賞したときの感激に匹敵するものには、まだめぐりあっておりません。
 記録映画があることは初めてしりました。そのごアメリカ人俳優などが参加した上演などを見ましたが初演の感激を味わえませんでした。
 記録映画の再上映があるのなら何ものをおいても駆けつけたいと思っております。
 福島県猪苗代町百目貫290  66才

投稿: 磯川広昭 | 2011年12月 4日 (日) 20時16分

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