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2009年8月 6日 (木)

最近の読書から:『秋月記』

最近の読書から:『秋月記』
  葉室麟著、角川書店発行、1700円(税別)

 秋月藩は福岡藩(俗に黒田藩)の支藩。その所在を今で言えば福岡県中央部、東側には筑紫山地が迫り九州の小京都とも形容されることから美しい街並みが想像できる。秋月藩五万石に対して福岡藩五十万石。秋月藩も七代目・八代目あたりになれば、福岡藩としてもいっそ秋月藩を吸収してしまえとの雰囲気も漂よう。時は1800年少し前から1800年代前半にかけてのこと。物語の背景である。

 間余楽斎は弘化二年(1845年)、馬廻役・戸波六兵衛方に呼び出され、上意として幽閉する旨を告げられる。余楽斎は驚いた様子もなく「承った」と短く答える。藩の重職を務め、43歳で隠居してからも藩内に隠然たる力を行使、藩主をないがしろにしての専横の振る舞いがあったとされた。しかし、余楽斎は淡々として安堵の思いであることを口にする。自らの弱さに打ち勝ちたいと思って生きた一生のようなもので、これでその荷を降ろすことができたと。思い出すのは若かった日々のことで、あれから何十年たっただろうか。

 間余楽斎、若いときの名は吉田小四郎、元服して俊勝。子供の頃、小心であった小四郎は弱さを克服するために剣を磨く。学問でも秀才の一人に名を連ね、評判が伝わったか馬廻役二百五十石の間篤との養子縁組の話が持ち上がった。間家では養子を迎えると同時に遠縁の娘・もよと夫婦にさせるつもりだったが、急に江戸遊学に出立する。そこでの仲間うちの話題に、家老・宮崎織部、渡辺帯刀らの悪行。遊学を終えた小四郎は秋月藩を愛する気持ちから本藩である福岡藩に直訴するが・・・。

 

 小藩である秋月藩の悲哀を感じながら、それでも秋月藩のより良い明日を信じ、自らの信念に基づいて行動する小四郎。志を同じくし、やがて離反し、それでも結束して敵に立ちむかう仲間たち。小四郎を支えるもよ、危機を救われたことを契機に惹かれていく稽古館教授・原古処の娘・猷。美しくも強く生きる女性たち。魅力的な人物群が興味深い。

 何箇所かに出る漢詩が物語に余韻を与える。と言いたいが扱いが雑ではないか。漢詩と言いながら読み下し文のみ、読めるか否かは別にして原詩も記述したらどうか。見た目の美しさが漢詩にある。猷が旅立ちに際して小四郎に届ける手紙には七言律詩のみが。七言律詩といいながら読み下し文4句しかない(P259)のは如何なる理由か。そこに叶わぬ恋心がほのかに吐露される。そして小四郎は諸国を巡り歩く猷を思い浮かべ、ふと羨ましさを感じる重要な場面であるのだが。

 歴史は繰り返す。人は自ら思う範囲で最適行動を考えるが、人が多数集まればそこに食い違いが生じる。長い時間で見れば不整合も生じる。武士は戦う集団であるが、江戸末期になればその役割は終えていて商人の時代に移り変わっている。
 これを今の世に当て嵌めようと思う気持ちはさらさら無い。が、自らに当て嵌めるならば、どの人物に当て嵌めたとしても、その人物になりきって行動するだけのことかと思う。悲しいことのようだがそれを乗り越える術はあるだろうか。時に憎まれ役もなくてはならないと言うことか。

 葉室麟は群像を描いて時代を炙り出している。旅心も誘う。権力闘争を描いてなお美しい物語に仕上がっている。一気に読み終えた。

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コメント

私も一気に読み終えました。
確かに漢詩の扱いは雑でしたね。はっきり言ってなくてもいいくらいですが、女性の人となりを読者に伝えるために必要だったのでしょう。
余楽斎のような人が現実にいるでしょうか。
小さな事なら誤解されていることはままあるかもしれませんが、人生を賭けてまで、潔くその役に徹することができるというのは並大抵じゃないですよね。

投稿: strauss | 2009年8月 7日 (金) 22時44分

忘れていました。
越後妻有、一か所だけと限られるとしたら、
どこがお薦めでしょうか?(エリアだけでも)どちらかというと大きい(作品自体もイメージも)ものを観たいです。
大地の芸術祭というくらいですからやっぱり自然とのバランスも欲しいかな。
まだ下調べはされていませんか。
あまりに漠としてピンとこない状態です。

投稿: strauss | 2009年8月 7日 (金) 22時58分

 女性が漢詩を作るということがポイントなのでしょうね。当時ならばそれだけで男勝りのイメージが形成されます。調べた範囲で、

  原采蘋

  此去単身又向東
  神交千里夢相通
  家元天末帰何日
  跡似楊花飛任風

でした。これだと絶句ですが、律詩となっていました。後があるのでしょうか気になっています。
 秋月に出かけたくなりました。天領日田に行きたいと思っていますので、もう少し西に足を伸ばせば良いかと。


 越後妻有に関しては難問ですね。
 ほくほく線松代駅周辺は作品が集中しているので、一箇所ならばここをお勧めします。「農舞台」を中心に第一回作品「カバコフ・棚田」、第二回作品「草間弥生・花咲ける妻有」などを中心に多くの作品があります。少し奥に入ると美しい棚田、駅前の商店街にも何かありそうです。
 松之山の「ボルタンスキー・最後の教室」は瀬戸内国際芸術祭の連動するようです。これは廃校を利用した作品で第三回から発展するようです。

 9日から2泊で出かけます。ガイドブックを購入しましたが、結局は行き当たりばったりになると思います。間に合えば追って情報提供いたします。

投稿: F3 | 2009年8月 8日 (土) 00時16分

あれから調べてみました。
そもそも思い立ったのがJRのツーデーパスで、一日は一度は行こうと思っていた郡山へ、十日町もフリーエリア内にあることを知り、それならということなんです。
新幹線を使わないでどこまでやれるか調べたら、十日町で5時間滞在が限度。松代までは難しそうです。
時間がもったいないなどと考えるとすごく高くついてしまうので、今回は越後妻有初挑戦ということでピンポイントで出かけることになりそうです。
情報を楽しみにしています!!

投稿: strauss | 2009年8月 8日 (土) 11時49分

 郡山、福島県の郡山だと思いますが、十日町と方向違いだと思ってツーデーパスの内容を確認しました。こんなチケットがあるのですね。フリーエリアにはまつだいが入っていました。駅名はひらがな表記でした。失礼しました。漢字で松代です。上越線を基準にすれば、十日町駅の一つ先です。

 十日町駅ですと、駅の傍に越後妻有交流館「キナーレ」があります。周辺に作品もありますが、何分にも市街地ですから自然は期待できません。そういう意味ではまつだいまで足を伸ばすのが条件の範囲内で最善と思います。公式ガイドブックにも、「半日しか時間がないなら、まつだい「農舞台」へ!」と書いてあります。まつだい駅の目の前にある雪国農耕文化村センター「農舞台」のことです。時間に合せてこの周辺の作品を巡ることが可能です。

 追って、第4回トリエンナーレの報告をします。

投稿: F3 | 2009年8月 8日 (土) 21時50分


ありがとうございます。
まつだい「農舞台」ですね。
是非行ってみます。
行かれた感想などお待ちしています。
楽しんできて下さいね~!

投稿: strauss | 2009年8月 9日 (日) 01時52分

 このたびは、ご心配いただきありがとうございました。

 静岡はずっと以前から、大地震が来る来るといわれていて、
自治会での訓練も何度も繰り替えされていますから、
県民の防災意識は高いかもしれませんね。
でも、いざとなると何も出来ないことがよくわかりました。
水や食料の備蓄も大切ですが、先ずは家具の固定を強くお勧めします。
我が家もそれで事なきを得ることが出来ました。

投稿: salala | 2009年8月12日 (水) 23時55分

 何事もなくて何よりでした。東名高速修復は遅延していますが、それでも大きな被害が発生しなくて何よりでした。

 大地震の場合、家具やTVなどが大きく移動するとのことですから、どこかに固定することは重要と認識しています。ただ実施に結びついていません。改めて、計画的に進めなければいけないと思っています。まずは怪我をしない、火を出さないことが重要ですかね。

投稿: F3 | 2009年8月14日 (金) 00時42分

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