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2009年4月10日 (金)

読書:最近の読書から(2009年3月後半)

4.『まほろ駅前多田便利軒』
    三浦しをん著、文春文庫、543円(税別)

5.『東大寺・お水取り』
    佐藤道子著、朝日選書852、1300円(税別)

6.『見えない音、聴こえない絵』
    大竹伸朗著、新潮社、1800円(税別)

 

4.『まほろ駅前多田便利軒』

 まほろ市駅前の便利屋「多田便利軒」。経営者は多田、30半ば。十数年ぶりに再開した行天は高校の同級生、居座ることに。二人は仲が良かった訳でもなく、むしろ多田は行天の居座りを歓迎していない。共に離婚を経験。多田は多少世間を斜めに見ており、行天はどちらかと言えば純粋で一途。
 まほろ市は東京南西部のある年が想定されるがそれはどうでも良い。住宅街、歓楽街、その他何でもあるような猥雑な一面を持つ膨張しつつある街。そこで二人は生活臭のにじみ出た依頼ばかりでなく、多少やばい依頼にも関わる。
 場面の設定、二人の性格、取り巻く人物。どちらか言えば底辺や社会を半分はみだした人たちの喜怒哀楽。私のすぐ隣で起きている出来事のようで遠い世界の話でもないと思える。三浦の文書は簡明で先へ先へ進むことを促す。会話の多用がそう感じさせるのか。面白いで済ませてはいけないけどやはり面白い。自分を重ねてみたいけど、さてどちらに重ねようか。三浦しおん、私の注目作家に加えよう。

 

5.『東大寺・お水取り』

 お水取りに多少とも興味があれば、全体像を理解するための入門書として最適。と言うより、知る限りで現在入手可能な類書はないように思う。奈良に旅するならば、お水取りの時期を選べばより印象深いものになるだろう、終えたばかりであるが。
 二月堂の回廊から突き出されたお松明から火の粉が飛び散り、詰掛けた群衆から歓声が上がる。お水取りとして認知される典型的な光景だ。しかし著者は「本来のお水取りの凄さは、お松明だけじゃないんだ」とつぶやきたくなるようだ。私も垣間見た経験からまったく同感だ。1250年続く伝統行事に仏教の偉大な一面が感じられる。
 本書はお水取りの発生や現状、日に六時(回)の勤行の概要や主だった行事を概説する。通称「お水取り」、正式には「東大寺二月堂修二会」。お水取りは3月12日深夜(実際は13日)に行われる行事のことであるが、修二会全体を指して言われることのほうが多い。
 修二会とは本尊・十一面観音の「悔過会」、すなわちその年の安穏豊楽や除災招福を願い祈ること。3月1日から14日間、日夜六時の厳しい勤行を繰り返す。その中に心和む光景も挟まる。
 柔らかな語り口に、著者のお水取りに寄せる敬慕の念を感じ、共感も覚える。

 

6.『見えない音、聴こえない絵』

 直島における「スターンダード展」、東京都現代美術館における「全景展」などで大竹の作品に接すると、その創作意欲の一端を伺い知りたいと思うようになる。本書はその好奇心の一部を満たしてくれる。
 月刊誌「新潮」の2004年2月号~2008年10月号+1号に掲載されたエッセイを仕立てたもの。掲載順でなく「遠景 記憶と創造」「全景」「近景 日常と創造」のテーマ別に再構成されている。行き交う心の動きを整理したのだろう。しかし掲載順で良いと思った。時の過ぎ行くままに、行動と心の動きをシンクロさせて感じ取れるだろうから。
 『何かを作り出す時、当たり前のように耳にする「テーマ」とは一体何なんだろう』『「こういうもの」を作りたいと思い「そういうものが」が出来た時ほどつまらない瞬間はない』『作品制作とは「わからないこと」をわかろうとすること、そして再び出合ってしまう次なる「わからなさ」に抑えがたい衝動を覚えてしまうこと・・・その繰り返し』。
 こういう言葉を探し当てると大竹の創作意欲の一端を伺い知ったような気になる。そして、なんだ大竹も判っていないのかといささか安心する。
 本書は読んで誰もが楽しくなるわけではない。しかし大竹ファンや現代美術に惹かれる方には興味深いものになるだろう。読めばまた次の疑問が湧いてくるのだが。

 

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コメント

「まほろ駅前多田便利軒」
こちらで見て、図書館にあったので読みました。夢中で一気に読了。
三浦さんの著書は以前読んだことがあっても全然覚えていなくて、あまり私には合わないと思っていましたが、本書を読んでもう一度読み返す気になりました。
相変わらず沢山読んでいますね。
小説が加わったことは嬉しい限りです。
感想がたのしみですから。

投稿: strauss | 2009年4月12日 (日) 21時49分

 Straussさんには敵わないです。読むペースも不安定です。小説の世界も広いから、どの作家を選んで良いか見当がつきませんでしたけど、少し興味惹く作家がでてきました。拙い感想をまとめだしたのも、読書には良い効果が出るように思います。自分なりの読書を継続しないと。

投稿: F3 | 2009年4月12日 (日) 23時33分

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