読書:最近の読書から(2009年1月前半)
1.『正倉院』
杉本一樹著、中公新書1967、800円(税別)
2.『東京奇譚集』
村上春樹著、新潮文庫、400円(税別)
3.『好戦の共和国アメリカ』
油井大三郎著、岩波新書1148、780円(税別)
1.『正倉院』
後書きに「正倉院事務所の若い人が使える教科書のようなものを意識、ただし学術的には不十分なものとなった。読み物として気楽にお読みいただければ」とある。
毎秋開催される正倉院展に10回ほど出かけた。展示品を観ていると、なぜ1200年の長きに渡り多くの宝物が守られたかと疑問も沸き起こる。その背景をもう少し知りたい。しかし本書は気楽に読めない。私の知識の浅さの問題に帰するのだが。歴史に通じないと、豊富な内容は理解が進まない。
それでも断片的な知識を得た。例えば「蘭奢待」という香木にまつわる歴史。実物を目の当りにしたこともあり興味を惹く。一部を切り取った権力者の名を記した付箋が貼られている。足利義政、織田信長・・・。徳川家康については議論があったようだが、結論は本書を一読願う。
気楽に読めたら本当に楽しいだろうと思う。少しづつ進もう。
2.『東京奇譚集』
村上春樹は5・6冊目。昨秋、電車に乗る前にふと手を出したのが最初。いずれも物語りの世界に自然に入り込めた。技術文書を思わせる簡明な文体。心をくすぐるこだわりのグッズ。短編でも長編でも、展開される世界の面白さは言うに及ばない。ただし、どこかにこだわると深みにはまり込みそうだ。その場合、とりあえずさりげなく通り過ぎる。いつか後戻りする日も来るだろ。中編・五編で構成される本書も、決して例外でない。
「ハナレイ・ベイ」。サーファーで19才の息子が、さめに足を食いちぎられて他界する。知らせを受けた母・サチは飛び立つ。その後毎年、その時期に現地を訪れる。ある時、日本人の無鉄砲な二人の若者の世話をすることに。そして、二人が片足のサーファーを見かけたと。サチは自分になぜ見えないかとベッドで涙する。心情が痛いほど判る。
「偶然の旅人」。ピアノの調律士をしている彼は、ゲイであることをカムアウトしたために姉の縁談がご破算になりそうに。それが契機で姉と疎遠になる。あることをきっかけに10年ぶりに姉に電話する。姉は今からそちらに行くと。何があったのか。
他に「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」「品川猿」。前二者に比べて作為が強すぎるか。いや奇譚集なのだ。
3.『好戦の共和国アメリカ』
「黒人のアメリカも、白人のアメリカも、ヒスパニックのアメリカも、そしてアジア人のアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国だ」。2004年7月27日、民主党大会でのオバマ(現大統領)演説の一節。アメリカを世界に置換できないものか。世界の紛争の多くにアメリカが関係している。
私は近代史の範疇、せいぜい第二次アジア・太平洋戦争以降で基礎知識を得たいと思ったが、著者は植民地時代から始める。そこを起点にしないと、アメリカの好戦性は説明できないと主張する。確かにアメリカの歴史は領地拡張の戦争に始まる。西部開拓は、視点を変えれば原住民、弱者阻害の歴史でもある。
「第5章パクス・アメリカーナと局地戦争」で朝鮮戦争とベトナム戦争。そして、「第6章ポスト冷戦下の民族・宗教戦争とアメリカ」で湾岸戦争と対テロ戦争を取り上げる。近代史に該当するページは三分の一。
「アメリカはなぜ好戦的なのか、デモクラシーの先駆者を自負するのに・・・」。2002年のブッシュドクトリンは、デモクラシーの先駆者であるがゆえに好戦的になると理解される、と著者は考える。
多様な価値観をまず認めないと。アメリカの役割は大きいし、新大統領への期待も大きい。
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コメント
「東京奇譚集」面白かったですね。
表紙の猿の絵もよろしく{゚ω゚}エノザル
投稿: eno | 2009年1月25日 (日) 18時56分
ずいぶん読まれていますね~
私は最近滞りがちです。
面白いものを読むとあとがなかなか続きません。
性分ですね。
余計なことですが、
コメントを書かれているenoさんは「東京奇譚集」の表紙を描かれた方です。
私は数年前に小布施の中山千波館で展覧会を観たことがあって、ブログにも時々お邪魔してます。
投稿: straussst | 2009年1月25日 (日) 23時37分
enoさん、思わず書店のカバーを外して装画を確認、裏返して作者も確認しました。「品川猿」が渋い調子で描かれていて流石だと思います。結論からそう思うのですが、創作過程は私にわかりません。一枚にまとめるのは大変だと思います。コメント頂かなければ見逃したと思います。
単行本だと装丁や組み方も気にしますが、今後は文庫本も同様に気にしてみます。
Straussさん、上述の通りです。
仕事内容が多少変わりまして、本を読む時間が少し多くなりました。「日本語が亡びるとき」「いのちなりけり」「納棺夫日記」の三冊のコメントをまとめています。まとめようとすると、いい加減な読みがばれて苦慮します。それでも多少何かが残るだろう、それで良しとしています。
投稿: F3 | 2009年1月26日 (月) 01時04分
本当に。
感想をまとめる時に、実際ちゃんと読めているのかどうかがよくわかりますよね。
小説の場合なんかは人それぞれとも言えますが、やはりそこで一番核になるものは何かをまず考えます。
わからない時はいい加減な感想になってしまいます。
読むのではなく読み取る力が欲しいといつも思います。そのためにあれこれ考えるのではなく、多くの書物を読もうと心がけているんです。まだまだ足りません。
投稿: straussst | 2009年1月26日 (月) 18時18分
しっかり読める、そうありたいと思います。そして、しっかり感想をまとめられる、そうありたいとも思います。訓練されてていないから、それもなかなか難しい。でもやらないよりはやった方がよほど良い。そんな感じです。続けましょね。
投稿: F3 | 2009年1月27日 (火) 21時37分