読書:最近の読書から(2008年10月後半)
1.『新版1945年8月6日』
伊藤壮著、岩波ジュニア新書156、740円(税別)
2.『現代アートバブル』
吉井仁実著、光文社新書369、740円(税別)
3.『友達・棒になった男』
安部公房著、新潮文庫、476円(税別)
1.『新版1945年8月6日』
副題に「ヒロシマは語りつづける」とある。
著者は広島一中三年のとき学徒動員中に工場で被爆し、軽度ではあったが急性放射能症にかかる。その体験を、未来を担う若い人たちに伝えようと試みたのが本書であろう。平易な文でも原爆ゆるすまじの思いが伝わってくる。
「世界は天地がつくられた初めにもどったかのようでした。どこが陸かどこが水か。暗黒が広がり、音ひとつしませんでした」。その一瞬の描写。そしてその後の残酷な状況の描写。筆舌につくしきれないだろうが。こういうときにこそあらゆる想像が必要になる。
構成は、「1.天地のくずれた日」「2.戦争のなかの暮らし」「3.被爆の苦しみ」「4.原爆はなぜ広島・長崎へ」「6.核廃絶への道のり」。原爆投下から核廃絶までの道のりを理解できる。
原爆は広島・長崎に投下された。が、多少状況が異なっていたらあなたの町に投下されたかもしれない。世界平和に思い馳せながら通読することを勧めたい。子供と一冊を共有すれば、貴重な時間が生まれるだろう。
2.『現代アートバブル』
現代アートが多様であることは認識している。そのような状況下、アーティストとコレクターを取り持つのが著者の仕事であり、清澄で hitomiyoshii を経営している。
「私はこの本を通して、多くの人に現代美術の状況や、選び方、そしてなにより楽しみ方を伝えていきたいと思っています」と前書きで豊富を述べている。本書からその思いは伝わる。
著者が共同作業で生み出したコンセプト「アフター・ザ・リアリティ」。9.11以降、世界各地で同時多発的に発生しはじめた新しいアートの潮流を指す。画廊主はアートの仲介という印象が強い。が、決してそこに止まらない。アーティストとの共同作業で新しい世界の開拓、そういうことも仕事のうち。
「1.現代アートの潮流」「2.アートマーケットの現状」「3.自分と世界を知るヒント」の構成で、多少はアートの世界に入り込める。気に入った小品を手元に置きたい、そんな気持ちになってくる。
3.『友達・棒になった男』
男の一人住まい、そこに見ず知らずの9人家族がやってきて我が物顔に振舞いだしたら。善意に満ちたその行動がもたらすものは。
警官に窮状を訴えるが信用されない。管理人に救いを求めても要領を得ない。
私が私であること、私が所有すること。当たり前のようでいて、ちょとしたことでがらがらと崩れおちてしまう不安定さ。不気味な世界が展開する。
『棒になった男』『榎本武揚』も収録。大昔に観たけど、榎本武揚って安部公房だったのね。
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