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2008年10月19日 (日)

読書:最近の読書から(2008年10月前半)

1.『忘れられた日本人』
    宮本常一著、岩波文庫、660円(税別)

2.『ジャーナリズム崩壊』
    上杉隆、幻冬社新書、740円(税別)

 

1.『忘れられた日本人』

 再読はほとんどしないが本書は例外中の一冊、何読目になるか。民俗学に分類され学術的価値大と思う。が、それを脇においても下手な小説よりずっと面白い。古き良き日本の記録か、いや極めて日常の記録。それが良いと思えるのは私が失ったかも知れない何かを発見するからだろう。例えば。

 四人の年寄りが村の変化の話す「名倉談義」。そこに著者も感動する話がある。Kは夜遅くまで仕事する、特にS宅前の田では。遅くまで灯があり仕事がはかどった。と言ったら、そうでない、Kが仕事しているからあかるくしていたと。座談会まで好意を知らず、伝えずにいた。共同体には目に見えない助け合いがある。

 親に叱られた子供が夕飯時になっても帰らず、警防団に頼んで探す「子供をさがす」。見つかった後で気がつくと、指揮者が居たわけでもないのに計画的な捜索がなされた。子供の家の事情や暮らし方を知り尽くした共同体をそこに見る。警防団が帰ったその時、若い男が戻っていないことに気づく。彼はのんべえでいつも子供を怒鳴りつけてたが、人気はあった。彼は子供の一番仲の良い友達のいる山寺まで探しに行っていた。そこは一番さびしく不便な山の中だった。

 これらは極めて日常的な話。他に、歌垣の原点を思わせる「対馬にて・民謡」なども生き生きとした日常が眼に浮かぶ。劇的な話ならばばくろう一代の「土佐源氏」か。
 後半に「文字をもつ伝承者(1)(2)」。すなわち、多くの話は文字を持たない者たちの記憶なのだ。

 どこから読み始めて良い。文体は平易で内容が難しいこともない。それなのに迫り来る何かが記録されている。宮本の暖かいまなざしがそれを可能にしたのだろう。
 読了して「強い日本」の原点はこういうところにある気がした。ゆめゆめ勘違いしないでと願わずにいられない。これからも折に触れて読み返すであろう。名著である。

 

2.『ジャーナリズム崩壊』

 著者はフリーランスのジャーナリスト、それ以前にNHK報道局勤務、衆議院公設秘書、ニューヨークタイムズ東京支局取材記者を経ている。

 著者の考え方を否定できない。しかし全面的に肯定も出来ない。どうしてかと言えば、私が確固たる判断基準を持ち合わせないことによる。それと著者の立ち位置にもよる。

 例えば、冒頭で次のように言う。「日本に『ジャーナリズム』はある。ただしそれは日本独自のものであり、海外から見ればジャーナリズムとは言えない。・・・・はっきりとそう認識したのは(ニューヨーク・)タイムズに入った1999年」。海外のジャーナリズムすなわちタイムズなのか、あるいはタイムズを包含する何かがあるのか。そういう疑問から私は終始解放されなかった。

 「第1章.日本にジャーナリズムは存在するか?」等で指摘される事実、それは著者の耳目を通して認識した事実ではあるが、の一端を私も日本のジャーナリズムを通して見聞きしたことはある。公知の事実もある。問題がないとは思わない。

 しかし、直ちに著者の見解を全面的にそうだとも言えない。物事の全貌を極めるのは容易でない。容易でないだけでなく突き止めることもできない、私には。絶対的な判断基準がないから輪廻に陥る。

 ジャーナリズムあるいは多くのメディアにもっと敏感になる必要があると思った。興味あれば一読を。

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コメント

「忘れられた日本人」、読んでみたくなりました。
図書館で、「安部公房全集020」と一緒に借り、
まずは「友達」から読み始めています。
まだ読了していないので曖昧ですが、
何か繋がるものを感じています。
他人とは、共同体とは、連帯とは、何か。
「友達」には、そんなテーマが見え隠れしています。
舞台、楽しみですよね。

投稿: さらら | 2008年10月25日 (土) 21時39分

 さららさん、こんにちは。私は読了してから、著者の故郷の周防大島まで行きましたよ、当時は尼崎居住でしたけど。何も調べていなかったので、島を一周して帰路に着きました。それで満足していましたけど。私にとってはインパクトのあった一冊です。
 横浜トリエンナーレで「チェルフィッチュ・フリータイム」の映像が流れています。私は公演を観て否定的な感想を持ち、映像も横目で見て通り過ぎます。しかし、どのような演出をするかは興味あります。「友達」観たら印象は変わるでしょうかね。いずれブログで感想など。

投稿: F3 | 2008年10月26日 (日) 16時41分

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