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2008年9月16日 (火)

読書:最近の読書から(2008年9月前半)

1.『魂の古代学』
    上野誠、新潮選書、1200円(税別)

2.『その絵、いくら?』
    小山登美夫、セオリーブックス講談社、1400円(税別)

3.『溺レる』
    川上弘美、文春文庫、400円(税別)

 

1.『魂の古代学』

 書店の民俗学の一角に平積みされていた。「問いつづける折口信夫」の副題。伝記はまず読まない。それを意識したら手に取ることはなかったかも知れない。折口信夫の名を知らぬわけではないが、その業績を突き詰めて知る必要性は今の私にはない。しかし、内容は大変に興味深かった。乱読も捨てがたい。
 折口は物事を包括的に把握するようなところがあるようだ。折口と著者の冒頭の架空対談でそう感じる。
 エピローグに折口の人となりの要約がある。 (1)大衆読書時代の「万葉集」のテキストを作り出した (2)差別の視線をえぐり出して、そこからのまざざしと関係性の古代学を構想した人 (3)そして、日本人の魂のありかを探索し (4)日本人の信仰について考え抜き (5)時に醜い日本人を告発した人。そうか、容易に万葉集を手にとれるのは折口あってのことなのか。
 要所で原著引用、これが折口の人となりを鮮明にする。例えば「神道の意義は、明治に入って大に変化している。憲法に拠る自由信教を超越する為に、倫理内容を故意に増して来た傾きがある。・・・」。国家と神道が結びついた過去、こういう主張が許容されていたんだ。巧妙に権力に立ち向かったようでもある。学者も様々。
 歌舞伎等にも子供のころから親しんだ。「渡辺保著・舞台を観る眼・角川学芸出版」中、「折口信夫という存在」が少し繋がった。

 

2.『その絵、いくら?』

 村上隆の「マイ・ロンサム・カウボーイ」に、2008年前半のオークションで16億円の価格がついた。著者はこの作品のエディション(限定数の複製)5つのうちの1つを扱ったことがある。確か1998年頃に約500万円で売った記憶があるそうだ。500万円で制作費などを差し引いても利益はしっかり出ていた。それから10年、作品の価値は300倍以上になった。この時のエスティメイト(落札予想価格)は3.2億~4.2億円だった。何でも16億は高いと思ったようだが、美術品の価格はどのように決定されるか。
 美術品の価格には、プライマリーとセカンダリー・プライスの2種類がある。前者はギャラリーで新作を展示販売するときの価格、アーティストとギャラリストの間で決定される。後者は相場、売る側と買う側の合意により決定される価格である。
 プライマリーは、恒久性のある作品が高くなる。そして版画などの複数作品が作られるものより1点ものが高くなる。現代アートの場合はアーティストとギャラリーの取り分は50:50。絶対額はどう決定するのか。まずは売れる価格に設定する。
 多くの人にとってアートは高値の華だが、しかし、無名に近いころの作品は手ごろかも知れない。好きなものを好きだと言える勇気。時にリスクを伴うが、それを買えるということは良いことだ。
 私もそう思う。好きなものを好きだと言える勇気はある。しかし・・・。ギャラリーに行ったからといって必ずしも買わなくとも良いそうだ。ギャラリーは生のアートを価格つきで鑑賞できる場所、もっと足を向けても良いかも知れない。

 

3.『溺レる』

 シュール、そう感じさせる短編8作。メザキさん、モウリさん、ユキオ、ナカザワさん、ハシバさん、サカキさん、ウチダさん。各々の主人公の相手はどうも一筋縄ではいかない。
 メザキさんと一緒に蝦蛄を食べに行くが、電車どころか車もろくに通らないような場所で帰れなくなる「さやさや」。しかたなく歩き出して途中で雨に振られる。雨が降りはじめておしっこが我慢ならなくなっていた。道端の草むらで。サクラさん、さみしいね、メザキさんの声がした。おしっこしててもさみしいよ、メザキさん。
 少し前から逃げている。二人して逃げている。逃げるつもりはないがそうして逃げているがすぐにわからなくなってしまう「溺レる」。モウリさんはリフジンなものから逃げている。コマキさんは何から逃げているんですか。私は答えられない。一つ逃げてみますか。
 どれを読んでもなかなか納得のいく話でない。しかし、それが不快かと言えば決してそんなこともない。最初に読んだのが「古道具 中野商店」。昭和の雰囲気を残す佳作。その後に「蛇を踏む」、そして「溺レる」。どうもその間がうまく埋まらない。頭が固いか、もう少し読んでみよう。

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