読書:最近の読書から(2008年4月)
1.『アジア・太平洋戦争』
吉田裕著、岩波新書10476、780円(税別)
2.『民主主義という不思議な仕組み』
佐々木毅著、ちくまプリマー新書064、760円(税別)
3.『貧困大国アメリカ』
堤末果著、岩波新書1112、700円(税別)
4.『反貧困』
湯浅誠著・岩波新書1124、740円(税別)
新書4冊は一ヶ月の読書量として多くない。しかも、理解も良く進んではいない。再読、再々読が必要と思っている。特に意識して選択したわけでないが、特に 2~4 は何らかの結びつきがある。4 は 3 に言及している。
1.『アジア・太平洋戦争』
当時使われた「大東亜戦争」はイデオロギー過剰な呼称、現在一般的に使われる「太平洋戦争」も、日米戦争本位の呼称で中国戦線や東南アジアの占領地の重要性が見失われてしまう可能性がある。タイトルを「アジア・太平洋戦争」とした理由である。これが著者の基本的な立ち位置であり、重要なポイントであろう。初めの方で示される戦争関係地図を見れば、この名称が的を射ていることはすぐに判る。
私は本書の内容をうまくまとめられない。よって、戦没者数を引用して戦争の愚かさを示したい。
厚生省によれば日中戦争から敗戦までの日本人戦没者数は、軍人・軍属などが約230万名、外地一般邦人が約30万名、国内戦没者数が約50万名、合計310万名。ここには朝鮮人と台湾人の軍人・軍属の戦没者数、約5万名を含む。しかし、この数字には疑問も少なくない。他にも漏れがあり、日本人の戦没者数は310万名をこえると考えられる。
アメリカ軍の戦死者数は約10万名、ソ連軍約2.3万名、英軍約3万名、蘭軍約2.8万名。
交戦国であった中国や日本の占領下にあったアジア各地域の人的被害はもっと深刻であるが、正確な統計資料がなく大まかな見積にで、中国軍と中国民衆の死者1000万名以上、他の地域を含めた総計で1900万名。詳細は本書を参照願いたい。合掌。
2.『民主主義という不思議な仕組み』
先の衆議院選挙は郵政民営化を世に問いかけた結果である。その後、選挙の洗礼を受けていない安倍、福田政権の下、日本の舵取りが為されている。少し前にはガソリン暫定税率が衆議院で再可決された。最近の世論調査は再可決に否定的な民意を示している。この状態は民主主義といえるのか。私の疑問は尽きない。
この本は若いヒトへのメッセージとなっている。しかし、考えてみれば、私も民主主義という言葉は知っていても、その本質がわかっているわけでない。
最悪の事態を避けることと最善の状態を実現することは分けて考える必要がある。現実社会には、グローバル化に伴う格差とか、環境・資源とか否応なしに対応しなければならない問題群がある。有効な施策に注力し、可能な限り国際的に有利な位置を占めるように導くことが政治の課題になる。政治は一時の興奮などによって左右されてはならないし、非合理な政策は有効性を持たないという冷静な観点を持ち続けること。政治は感情で動くように見えて、最後は「頭脳」でする活動であることを忘れてはならない。政治の世界には有権者を騙しかねない人がたくさんうごめいていることを無視できない。とは著者のまとめである。
若い人のことはともかく、遅ればせながら私はこれから心していきたい。
3.『貧困大国アメリカ』
「第一章・貧困が生み出す肥満国民」「第二章・民営化による国内難民と自由化による経済難民」「第三章・一度の病気で貧困層に転落する人々」「第四章・出口をふさがれる若者たち」「第五章・世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」」の構成で、アメリカの貧困の実体を紹介していく。以下、私の特に気になった部分を。 第一章、家が貧しいと毎日の食事は安くて調理の簡単なジャンクフードやファーストフード、揚げ物中心になる。肥満国民の増大傾向はますます強くなる。
第二章、ニューオリンズ市の大半を水没させたハリケーン・カトリーナ、それは自然災害ではなく人災であったと。民営化された連邦緊急事態管理庁の絶望的な対応の遅さが原因と言う。
第三章、例えば急性盲腸炎でたった一日入院したその請求額が132万円。保険でカバーできず、妻の出産も重なり借金が膨れ上がって破産宣告。極めて普通の生活していたにも拘らず。
第四章、落ちこぼれゼロ法は表向き教育改革、ただし全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること。裕福な生徒が通う高校は個人情報を提出さないが、助成金で運営している貧しい地域の高校は拒めない。訓練されたリクルーターにより軍隊に導かれる。
第五章、戦争でなく派遣と言うビジネス、勤務地バクダッドでトラック輸送。ただし積荷は武器。
貧困に向かわせる仕組み、貧困ビジネス。極めて普通の生活をする人々が何かをきっかけに貧困に落ち込むのは早く、抜け出すのは困難という事実。日本の先行指標としてのアメリカ、その負の側面が伝わってくる。いずれ日本もか。
4.『反貧困』
貧困の特徴は「見えないこと」であり最大の敵は「無関心」と言う。私は敵とは思わないが、さりとて味方でもなかった。
『「自助努力の欠如」でなく「自助努力の過剰」。「相談したいが、そちらに行く交通費がない」というところまで頑張ってしまう人が多すぎる』。「自助努力の過剰」には気がつかない。ネットカフェ難民やホームレスと言われる人の多くは、自分で問題を解決しようと思い過ぎて余計に深みにはまり込むとの指摘。心に留めたい。
雇用・社会保険・公的扶助の三層の社会的セーフティネット。しかし、一段目を落ちる人は、二段目も三段目もすり抜けてしまう可能性が高い。好んで貧困に陥るわけではあるまいが、そこから抜け出すことは限りなく困難。再チャレンジが許されない社会構造になりつつあるのか。
著者は、反貧困ネットワーク事務局長、NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長。体験に基づく話題や活動の様子から、貧困・反貧困の概要を知ることができる。政治の貧困さも感じられる。何かをきっかけにして急坂を転げ落ちるように貧困に近づく。新自由主義の影が色濃く漂よう。私は関心を継続したい。多くの人に一読を薦める。
もやい http://www.moyai.net/
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