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2008年2月 3日 (日)

読書:最近の読書から(2008年1月)

1.『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』
    内山節著、講談社現代新書1918、720円(税別)

 著者の住む群馬県上野村に昭和20年代まで「山上がり」の風習があった。主要産業は養蚕で投機的要素があるから自己破産者もでる。生活が立ち行かなくなった者は共同体に対して「山上がり」を宣言する。森の奥に入って暮らすのだ。「山上がり」に対する取り決めは「誰の山に入っても良い。生活に必要な木は誰の山から取っても良い。同じ集落に暮らす者や親戚は十分な味噌を持たせる」。この間、元気な男たちは町に出稼ぎに行く。一年もして金ができれば村に戻り、それを待って家族は山を下り元の生活に戻る。
 これは「第3章キツネにだまされる能力」の一部。破産は暗い話題だが、自然と共同体により短期間のうちに再生できる可能性を示す。「おむすびを食べたい」と言い残して孤独死を迎える悲惨な共同体とは大きく異なる。しかし、一部事例を比較して好悪を判断することは避けなければならない。
 キツネにだまされることがなくなったのは1965年、昭和40年と著者は言う。昭和30年代まではかろうじて自然との共生が残っていたと受け止めた。著者は「キツネにだまされなくなった」理由を考察する。科学的に取り上げられることはない、歴史的にも。その間隙を「歴史哲学」と言い、本書はその「序説」と言う。そこに人びとの生きる智恵が隠されていたのではないか。過去に戻ることは出来ないであろうが、先人の智恵を見直すことはできそうだ。本説を期待したい。

2.『「科学的」って何だ!』
    松井孝典・南伸坊 著・ちくまプリマー新書66、760円(税別)

 片や東大教授、片やイラストレータ。対談で話が進む。「わかる」も「納得する」も、両方「わかる」と言ってしまう。基本的には、人間がかかわるところのでの議論はみんな「納得する」の世界と思っていい。宗教・哲学・政治・経済・・・。科学の世界の「わかる・わからない」との差異は。科学の世界は「二元論」と「要素還元主義」。「二元論」とは、人間と自然を分けて考えること。「要素還元主義」とは、人によってイメージの異なる世界の話は考えようがないので、イメージが一致するところまで細分してから議論すること。ただし、それだけで自然を理解できてるわけではない。
 性格とは大脳皮質の中のニューロンの接続状況、血液中の物質の型とは関係ない。よって、性格と血液型の関係などない、と斬って捨てる。ただし、話題としては付き合いますとのこと。私もそう思う。とにかく、私の話などで納得しないで一読すること。そうすればわかります。
 息子から親に対する課題図書。いつもは放っておくがたまには読了しないと。親子の関係にヒビが入ることもないであろうが。

3.『文章のみがき方』
    辰濃和男著、岩波新書1095、780円(税別)

 著者は朝日新聞・天声人語を1975~88年の間、担当した。わかりやすい文章の代表である天声人語、その担当者は私と違う世界の人でしょう、とも思ってしまう。そう思える部分もあるが、大半は大いに参考になる。わかりやすい文章である。
 大きく4分割。「Ⅰ基本的なことを、いくつか」「Ⅱさあ、書こう」「Ⅲ推敲する」「Ⅳ文章修行のために」。それぞれは、5ページほどの小テーマの集合。最初のテーマは「1.毎日、書く」、次から「2.書き抜く」「3.繰り返し読む」「4.乱読をたのしむ」・・・。要は、自他の文章をよく読み、文章をこまめに書く、ということか。難しく無いじゃん。いやそれを続けることが難しいのです。
 各テーマの冒頭に数行の引用が付く。最初の一つ。「旅行に行って10日くらい書かないことはありますけど、そうすると10日分へたになったと思います。ピアノと一緒なんでしょうね。書くというベーシックな練習は毎日しないといけません(よしもとばなな)」。自慢じゃないけど、私なんて下手になる余地がない。やればやるだけうまくなるはず。何か希望が湧いてくる。

4.『暴走老人!』
    藤原智美著、文藝春秋社発行、1000円(税別)

 限界集落化・高齢者医療の動向など、見方によっては体の良い棄老伝説の再現とも思える。このような状況下、老人は如何に自己主張するか。一面が老人の暴走化なら話はわかりやすい。書名からそのように想起した。ちょっと待て。
 『不可解な行動で周囲と摩擦を起こしたり暴力的な行動に走る高齢者を、私はひとまず「新老人」と呼ぶ。・・・新老人の暴走する原因や理由をデータやスコアをもとに語ることは専門化がやるべきであろう。私は自己の体験にそって考える。私を衝き動かしたのは、やがて自分も新老人の列に加わるという「不安」である。』と、著者は言う。新老人すなわち暴走老人と取れる。著者は暴力的な高齢者になることを予測するのか。テーマとして興味はあるのだが、データやスコアをもとに語ることを専門家にまかせてしまうので腰の引けた感じがする。
 この後、『時間』『空間』『感情』に大別して話が進む。『感情』における透明なルールの提起などは新鮮のようにも思えるが、多くの透明なルールが昔からあるように思う。「新老人」の暴走事例が指摘されるが、著者の体験の範囲内であるから一般像は鮮明にならない。老人以外の事例を含むのもそれに輪をかける。
 私も近く(もう?)(新?)老人の列に加わる。否定できない一面もある。もう少し話を展開してくれると参考になる。

5.『医療崩壊をくい止める』
    世界2月号特集・岩波書店発行、780円(税込)

 『現在の問題を総括すると、①医療費の過度の抑制 ②医師を含めた医療従事者の絶対的な不足 ③研修制度の機能不全 ④先進医療や世界で認められている薬剤の承認が遅いこと ⑤医事紛争の処理・補償システムの不備等が緊急に対処しなければならない課題である』。これは、参議員議員にして医師である櫻井允(民主党)・森田高(無所属)の提言中にある。大方の報道等を総合して私もこのように認識する。科学の塊となった医療技術、それに比して課題は人間の関わることばかりではないか。
 別の記事で『日本の国民医療費は大体32兆円ぐらいでパチンコ産業は30兆円(文脈から2005年と思える)。医療費が高すぎると言う人もいるが信じられない』。どこに道路を作るかを論しる前に、医療費と道路建設費のあり方を論ずるべきである。一人ひとりが考えなければならない。その前に、国会議員一人ひとりが党議拘束など無視して真剣に考えるべきだ。難しくって考えられないって?難しい課題で、全体を理解できないと言ったほうが正確である。しかし、考えなければならない。
 ここ数年の読者で、しかも全てを読み切る能力もない。しかし、「世界」は私の考えの基盤である。

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コメント

一連の読書、どれも現代社会が抱える問題に大きく関わっていますね。
「暴走老人」については、F3さんのようにバランス感覚がいい方には物足りないのかもしれませんね。知らぬ間に社会通念に順応し後戻りできなくなる恐れを私は感じました。どんどん少数派が排除されて行く社会ですよね。日本は。

血液型が性格には関係ないと、最近はそれが主流ですね。私も性格は環境と体験の上にあるものだと考えてはいますが、同じ血液型の人が驚くほど似ているのは面白いですよね。
例えば仮に科学的に証明されてしまえば差別に発展しかねないことですから、話題として楽しむのがいいのでしょう。

それにしてもこれだけのものを読まれるにはかなりの集中力が必要ですね。
さすがです。

投稿: strauss | 2008年2月 3日 (日) 17時33分

Straussさん、速攻のコメントありがとうございました。読書感想をまとめるのはきつい作業ですけど、Straussさんをまねて少しがんばって見ようと思った次第です。
「暴走老人」、身近で切実な課題であるだけです。そんなに大したことはありません。穴があったら入りたい。
「科学的」、血液型と性格を関連付けたのは東大の先生らしい。留学先のドイツで血液型が白人種の優越性の根拠になるんじゃないかという研究があったらしい。ゆえに、この研究には東洋人の反発があったようです。しかし、帰国後にデータを取ったがうやむやになっちゃって。同書中に記述されていますが、科学的か否かわかりません。

投稿: F3 | 2008年2月 3日 (日) 23時33分

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