演劇:維新派・nostalgia
作 松本雄吉
演出 松本雄吉
音楽 内橋和久
出演 藤木太郎(ノイチ)、大石美子(アン)、ほか
劇場 彩の国さいたま芸術劇場・大ホール
時間 2時間(途中休憩なし)
観劇 2,007年11月3日 13:00~(客の入りは八分程度)
期間 公演終了(11月2日~4日)
ブラジル・サンパウロに到着した日本人少年ノイチは、ポルトガル移民のアンと恋に落ち、やがて子供ができます。しかし、カーニバルの夜にノイチは人を殺してしまいます。アンと先住民チキノをつれて、南米を点々と放浪することになります。川を渡り、戦争(革命?)に巻き込まれ、途中で彼らは散り散りになります。
舞台では次のように展開します。
M1 「海の近くの運動場」
M2 「移民たちの肖像」
M3 「身体検査」
M4 「<彼>」
M5 「7拍子のサンバ」
M6 「渡河」
M7 「難民」
M8 「風の旗」
M9 「ジャングルジム」
M10 「白と赤のタンゴ」
M11 「護送列車」
M12 「El dorado」
M13 「山高帽」
M1ではCG映像による移民船。ブラジルへの移民船はノアの箱舟だったのかも知れません。旧約聖書(多分、つがいの動物を乗せるなど言葉)の引用。新しい大地を夢見た人々は、新たな理想の世界を作り上げることを夢見ていたのかも知れません。これが三部作を貫くテーマだと思います。
M12では、CG映像と山谷を思わせる舞台上のセットを延々と人が超えていく様子が続きます。果てしない漂流の行く先に何が。やがてはるかに見える摩天楼は目指す新世界でしょうか。
M4で提示される彼は人の数倍はあろうかという動く大きな人形(着ぐるみ、TVコマーシャルで見かける)です。見た目のインパクトは大きいいけど、彼が何であるかは判りません。M13では、少年が大きな山高帽を彼にかぶせます。その少年も状況もよく判りません。アンが大きな足にすがり付いています。
南米が舞台になりますので、その地理的、政治的背景がよく判りません。それが全体の理解を妨げているのは事実だと思います。ただ、オペラに例えれば序曲にあたる部分がこの#1ではないでしょうか。これから展開される様子がおぼろげに提示されたととらえるべきと思います。
副題に「<彼>と旅をする20世紀三部作 #1」とあります。腰の重い私にとってシリーズ形式はありがたい。また来年、その来年と、日々過ごすうえでの励みになります。順調にスタートして欲しい気持ちがありました。まずは順調に滑り出したと言えます。気長に一年待ちます。
維新派の舞台はモノトーンのイメージを抱いていましたが、今回は随分とカラフルと感じでました。また、舞台上の作り物は高さ方向に延びていて、高低所の演技は立体的で厚みがあります。ジャンジャン・オペラの謂われと思いますが、韻を踏んだ台詞の群読および所作は洗練されていると感じました。コンピュータによると思われる音楽も維新派の舞台に欠かせません。気持ちを高揚させます。
さて、私が維新派を最初に観たのは大阪南港の野外仮設劇場における「水街」でした。足場丸太で作られた劇場、周囲に作られた夜店、その中央に焚き火がたかれブルースをかなでるミュージシャン。どこか別の世界に紛れ込んだように思いました。開演前に楽しんで、終演後も楽しむ。おりしも今頃の時期、奈良正倉院展からの帰り道であったことが鮮明に記憶されます。維新派は野外舞台のイメージがあります。
三十数年前、私の弟はブラジルに旅立ちました。さすがに移民船ではありませんが、当時は羽田空港から新しい世界を目指しました。技術移民でしたので数年を目処に戻る選択もあったようですが、結局そのまま住み着きました。ですから、維新派の舞台の底流にある漂流や移民は、家を後にした弟の思いを探りなおす契機にもなります。
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