壮絶な化粧:ダムタイプ「S/N」の記憶
サラリーマンですが、勤務場所が二箇所あるような変則勤務なので、週に一・二日は電車で、残りは自動車や自転車で通勤します。利用する電車は名古屋と横浜近郊の私鉄です。
電車の中で化粧する女性はどちらでも見かけます。珍しい光景ではなくなりました。OLに負けじと女子高生もがんばっています。
時々、私は、筆や刷毛を使用して美しくなっていく様子を横目で観察します。筆や刷毛までは良いとして、ビュランとかいう、美しくなるには不釣合いな器具を使用してまつげをカールさせていたりすると気が気ではありません。電車が急ブレーキでもかけたら、その美しい目を傷つけてしまうのではないかと。
私が人前で公然と化粧する様子を見たのは、もう10年以上も前のことでした。それは電車の中ではなく舞台の上でした。
ダムタイプは、もともと京都芸術大学の学生たちによって結成されたパフォーマンス集団で、いろいろな編成で活動するようです。私は、ダムタイプの舞台を過去3回観ていますが、2回は身体表現を中心にしたパフォーマンス、1回は倉庫状の空間でオールスタンディングの映像と電子音楽によるコンサートでした。写真展のような活動もあるようですが詳しくは知りません。
私が初めて観たダムタイプの舞台は、第1回神奈川芸術フェスティバル(横浜・ランドマークホール・1994年12月)における「S/N」で日本初演、そして、ダムタイプの中心メンバーであったFの遺作です。「S/N」とは「信号/雑音」のことで、電気・電子分野でよく使う技術用語です。
舞台の上手から下手にかけて人の背丈以上の高さの台が据え付けられて、その上で身体表現があったり、台の側面に短い言葉が写されたりします。
ある場面、台の上でFは化粧をしてドラッグ・クィーンに変身します。変身している最中に「僕エイズなの」と言ったように記憶しますが、エイズであることをカムアウトします。
エイズとは雑音なのか、マイノリティは雑音なのか、そういう社会的メッセージの発信と私は認識しました。表層的かもしれませんが、報道でしか認識していなかったエイズを、観客の一人としてカムアウトされたのですから、心中穏やかではなくなりました。何に対してか判りませんが、大いなるショックを受けました。
最後は、女性の股間から万国旗が延々と引き出される場面でした。
おおよその進行はこちらから、Projects、S/Nと進むと参照可能です。
化粧姿と万国旗の女性はこちらで参照可能です。
電車の中で化粧する人を見ていてふと思い出しました。
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